"古井戸の満点少女" 第1話
199911、埼玉県秩父の女子で、3たちは2000度センター試験の自己採点をしていた。
教の片隅で、桜は机のに自己採点表を広げていた。シャーペンを握る指先が、かすかに震えている。目のには、試験当に自分がき残した答えのメモと、聞に掲載された解答が並んでいた。
桜は、国語から順に確認していった。
1問目、正解。
2問目、正解。
数学も、英語も、社会も、理科も、赤い丸だけが増えていく。最初は見違いだとった。途で何度も目をこすり、もう度最初から見直した。
2回、3回、4回。
それでも結果は変わらなかった。
違えた問題が、1つもなかった。
全科目満点。
桜はしばらく声をせなかった。胸の奥で何かがきく膨らみ、同に怖さのようなものも込みげてきた。
隣に座っていた親友の伊藤結が、桜の表を見てを乗りした。
「どうしたの?」
桜は答えず、自己採点表をしだけ結の方へずらした。
結は表を覗き込み、丸の数を追った。やがて目を見き、息を呑んだ。
「うわ……全部ってるの?」
桜はさくうなずいた。
その瞬、結の顔が瞬だけこわばった。けれど、すぐにるい笑顔を作った。
「ねえ、本当にすごいよ。やばいよ、桜」
結の声で、周りの徒たちも振り向いた。教がしずつざわめき始める。担任の教師もづき、自己採点表を2度見た。
広告
「、本当に……?」
教師は聞の解答と桜のメモを照らしわせた。確認が終わると、教師の目がわずかに赤くなった。
「すごいな。これは、本当にすごいことだ」
桜はその言葉を聞いて、ようやく実が湧いてきた。
でも、どこの学でも、望む所へけるかもしれない。
そのの午、桜は学くの公衆話ボックスに入った。受話器を取り、父の職ではなく、自宅の番号を押した。
コール音が2回鳴るに、父の健がた。
「もしもし」
桜は受話器を両で握った。
「お父さん、自己採点してみたんだけど……全部ってるみたい」
話の向こうで沈黙が流れた。
「全部って、どういうことだ」
「センター試験の問題、全部。違えたところが1つもないの」
健はすぐに返事をしなかった。代わりに、く息を吸う音が聞こえた。その度の呼吸だけで、桜には父がどれほど驚き、どれほどんでいるのか分かった。
その夕方、健は仕事帰りに精肉へ寄った。い財布をき、いつもなら買わないすき焼き用の牛を買った。
狭い台所で鍋を用しながら、健は独り言のように呟いた。
「桜の母さんにも、らせてやらなきゃな」
桜が8歳の、母は癌でくなった。それから11、桜は父と2できてきた。
健は秩父のさな物で働いていた。裕福ではなかったが、娘の教育費だけは削らなかった。
広告
予備代がかかるは自分の費を減らし、学の庭教師もつけた。
桜も、それを分かっていた。
友にはよく話していた。
「いい仕事に就いたら、お父さんに物を辞めさせてあげたい」
その夜、2はすき焼きを囲んだ。
肉をに運びながら、健は嬉しそうに言った。
「この成績なら、の法学部にくべきだ。裁判官でも検事でも、定したにめる」
桜は箸を止めた。
「私、経済学部にきたいの」
健は顔をげた。
「経済学部をても、員か会社員だろう。今の代、女が認められるには、しっかりした職業につくのが番なんだ」
きな喧嘩ではなかった。
声を荒らしたわけでも、席をったわけでもない。
ただ、卓のにさな沈黙が落ちた。
その静かなすれ違いが、に父を10苦しめる悔になるとは、このの2はまだらなかった。
失踪当は、自己採点で満点を確認してから5のことだった。
センター試験を終えた3たちは、論文の準備に入る期だった。桜も例ではなく、そのは学の授業を終えたあと、2の物と順番に会う予定があった。
1目は、庭教師の巧だった。
巧は22歳の学3で、桜を1以教えていた。学くのファミレスで、桜と向かいって昼を取った。
「センター試験、お疲れ様」
巧はそう言って、桜のにデザートまで注文した。
庭教師のにも、彼はよく桜の好きなチョコレートを種類別に買ってきた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51