"いただきますのない食卓、私は家を出た" 第15話
の奥底にはまだ、そんな甘えがこびりついていた。
しかし話の向こう側からは何の返事も聞こえてこない。ただ静かな呼吸音だけが微かに伝わってくる。
孝志が恐る恐る呼びかけただった。話の向こうから、底れぬ静かでえ切った声が響いた。
「まだそんなことを言っているんですね」
その声には、27 寄り添ってきた妻のぬくもりは微も残っていなかった。りすら通り越した、完全な無関。
孝志は全の血がさっと引いていくのをじた。
「事のことくらいでげさ、悪気はない…… あなたたちは本当に何も分かっていないのですね」
みわ子の静かな声が、ゴミの散乱するリビングにたい刃のように突き刺さる。
孝志は息をみ、言も発することができなかった。
彼らはついに、決して踏み越えてはならない最の線を完全に踏み越えてしまったのだ。
「まだそんなことを言っているんですね」
話の向こうのみわ子の声は氷のようにたく、静かだった。
孝志は喉の奥がカラカラに乾いていくのをじた。
「みわ、違うんだ、俺はただ……」
「お母さんも、あなたも何も変わっていない。私がをた理由を、ただの事のストライキだとっている。し困らせれば、また便利な常が戻ってくるとっているんですね」
息を詰まらせた孝志。
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その沈黙に耐えきれなくなったのか、横から男の翔太がスマートフォンをひったくった。
「母さん、俺だよ、翔太。もうを張るのはやめてくれよ。俺たち本当に困っているんだ。お弁当はないし、着てくシャツもない。帰ってきて、く洗濯を回してくれよ」
26 歳にもなるの男が、自分の着の洗濯すら母親に泣きついている。その滑稽さに翔太自は全く気づいていない。
自分が困っているのだから母親はすぐにんで帰ってきて世話をするべきだ、それが当然だと信じきっているのだ。
しかし話の向こうのみわ子は、ため息つこぼさなかった。ただ淡々と答える。
「翔太、あなたはもう 26 歳でしょう。自分の着るものくらい自分で洗いなさい。お弁当も自分で作りなさい」
「はあ?俺はで働いて疲れてるんだぞ。なんで俺がそんなこと……」
翔太が声を荒げたその、横から女の彩佳が翔太のからスマートフォンを奪い取った。
「お母さん、私、彩佳だよ」
彩佳の声は涙で震えていた。
話で泣きじゃくる娘の声に、みわ子もしだけ息を呑んだ。
「お母さん、ごめんなさい。台所の奥にあった『族のこと』のノート、見つけたの。うん、全部読んだよ。
私たち、お母さんがどれだけ私たちのことを考えてくれていたか、何も見てなかった。
お父さんの胃のことも、おばあちゃんの血圧のことも、翔太お兄ちゃんのお弁当も。
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私たちが無言でべていたご飯は全部お母さんのだったのに。本当にごめんなさい」
彩佳はにしゃがみ込み、声をげて泣き崩れた。次男の匠も俯いたままポロポロと涙を流している。
話の向こうでみわ子はしだけ沈黙した。そしてこれまでのたい声とは違う、母親としての優しく穏やかな声で言った。
「あやか、見つけてくれてありがとう。あなたが気づいてくれたこと、お母さん、とても嬉しいわ」
「だったら、だったら帰ってきて!私、これからはお母さんのお伝いするから、緒にご飯を作ろう、ねえお母さん!」
彩佳はすがるように叫ぶ。
しかしみわ子からの返事は残酷なほど静かで、揺るぎないものだった。
「ごめんなさいね。私はもう、そこへは戻らないわ」
「どうして!」
孝志は彩佳のから再びスマートフォンを奪い返した。顔はりと焦りで真っ赤に染まっていた。
「おい、彩佳がここまで謝っているじゃないか。どうして戻らないんだ、お。本気で俺たちを捨てるつもりか?
事のことくらいでをて族を捨てるというのか、母親の自覚はないのか」
孝志はまたしても言ってはならない言葉をにしてしまった。自分でも気づかないうちに、番みわ子を傷つける言葉を選んでぶつけていた。
「事のことくらい」、その言が、この 27 みわ子がどれほどのいで台所にち続けてきたかを完全に否定する言葉だともらずに。
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