"十年目の数珠" 第4話
妻は再捜査を求めたが、受け入れられなかった。
やがて々のでは、別の憶測が流れ始めた。
最初に疑われたのは、義弟の田だった。
田は田と同じ部を使っていた。最までくにいた物でもある。さらに会社の経理を担当し、田と運営方針をめぐって対していた事実がられると、疑いは気にまった。
部では、田が会社の正を隠すために田を害したのではないかという噂まで流れた。
田は悔しがった。
しかし、朝に田が部をた、なぜ気づかなかったのかと問われると、はっきり答えられなかった。
「く眠っていました」
そう繰り返すしかなかった。
次に疑われたのは、名古の事業、吉田だった。
吉田は田の紹介した取引先の倒産によって、80万円以の損失を受けていた。初にもその話を持ちし、2目にも再び切りそうとして、田に避けられていた。
さらに吉田は、朝4半頃、寺の裏で誰かを見たと証言した物でもあった。
彼が見たは本当に田だったのか。
それとも、自分がその刻ににいたことを隠すための嘘だったのか。
吉田は「トイレにった帰りに偶然見ただけだ」と説したが、疑う者はなくなかった。80万円は当として決してさな額ではなかった。
しかも吉田は、田の失踪直、予定より1く寺をれていた。
広告
急な用事ができたという理由だったが、それもまた怪しく見えた。
3番目に疑われたのは、俊だった。
俊は、朝3半に田とすれ違った唯の物だった。さらに失踪の夕方、寺の庭で田と2だけで会話をしていた。
その会話の内容について、俊は最まで詳しく語らなかった。
「個な悩みを聞いただけです」
そう言うだけだった。
参加者たちは、あの会話ので田の表が固くなったことを覚えていた。
俊自もまた、事件さらに数が減り、を避けるようになった。
警察はこの3から事を聞いた。
田には確ながあった。
吉田には銭ながあった。
俊には最に田を見たというな証言があった。
しかし、決定な証拠は何もなかった。
目撃証言はい違い、物証はない。
当の捜査では、それ以めることができなかった。
結局、事件は単純失踪として処理された。
3か、捜査は完全に終結し、田は失踪者として記録された。
参加者たちは、それぞれ疑いを抱えたまま寺をった。
誰かは田を疑い、誰かは吉田を疑い、また誰かは俊が何かを隠していると信じた。
真実は、10、の静けさのに沈んだままだった。
10が過ぎた。
1985に寺で田誠が消えてから、世のはきく変わっていた。
広告
しかし田の方は、依然としてのままだった。
田の母親は、息子の帰りを待ちながら1989、平成元にくなった。最期の瞬まで息子の名を呼んでいたという。
田の妻は、1で2の子どもを育てた。
男は学になり、娘はになった。子どもたちは父の顔をはっきり覚えていなかった。それでも妻は、夫がいつか戻ってくるのではないかという希望を捨て切れなかった。
田の印刷所は事件直に閉鎖された。
借だけが残り、族は苦しいを過ごした。京のも売らなければならず、さな賃貸マンションに移った。
それでも妻は、毎になると野県の寺を訪れた。
どこかに夫の痕跡が残っているのではないか。
そうったからだった。
しかし、見つかるものは何もなかった。
義弟の田は事件、京をれた。
疑いの線に耐えられなかったのである。阪へ移り、さな会社に就職し、静かに暮らした。結婚し、子どももまれた。
だが彼は、あの夜のことを忘れられなかった。
なぜ田が部をたに目を覚まさなかったのか。
なぜ異変に気づけなかったのか。
その自責のに苦しめられ、酒の量も増えた。正や盆の期になると、姉である田の妻に話をし、涙声で謝った。
「義兄さんを守れなかった」
姉はそのたびに言った。
「違うわ。あなたのせいじゃない」
それでも田のは軽くならなかった。
方、名古の吉田は、事件に事業を拡させていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51