"7時15分の黒い日記" 第1話
昭5611、静岡県浜松で、29歳の員女性が忽然と姿を消した。
その女性の名は、吉田子。元の方に勤める、真面目で几帳面な女性だった。浜松は、ヤマハやスズキといった企業のをに活気づいていた方都で、朝の通勤になると、駅もバスもくので混みっていた。
子は結婚3目だった。夫の浩と、その母である静と3で暮らしていた。朝はいつも6に起き、台所につ。噌汁を温め、焼き魚を皿にのせ、ご飯と漬物を並べる。昭の庭で求められた、いわゆる“嫁の朝”を、子は黙々とこなしていた。
「噌汁、しいんじゃないの」
姑の静が茶碗を置きながら言う。
子はを止め、すぐにをげた。
「すみません。次から気をつけます」
夫の浩は黙ったまま事を続けた。子はその沈黙に慣れていた。浩は穏やかなだったが、母親にはく言えない。妻と母ので何かが起きても、結局は静の側に寄ることがかった。
7に浩と静を送りすと、子はようやく自分の支度に入った。紺のスーツにいブラウス。控えめな化粧をし、髪をえる。員として恥ずかしくないだしなみを確認してから、鞄をに玄関をる。
自宅から歩いて5分のバスに、子は毎朝715分には必ずっていた。
内部へ向かうバスに乗り、20分ほど揺られる。
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の最寄り留所でりると、子は背筋を伸ばして職へ向かった。8には必ず勤し、3、1度も遅刻したことがなかった。
仕事は窓業務がだった。預の受付、振り込み続き、通帳の記帳。1ちっぱなしで、常に笑顔を保つ必がある。昼休みはく、自分で作った弁当を急いでべ、午の業務に戻った。
定は17だったが、窓を閉めたも事務処理が残る。実際にをられるのは18を過ぎることがほとんどだった。
それでも子は音を吐かなかった。浩の料だけでは、3の活費と宅ローンをまかなうのは難しかった。子の収入は、計に欠かせなかった。
しかし、昭56当、既婚女性がで働き続けることへの線はまだ厳しかった。とくに姑の静は、毎のように同じことを言った。
「女はを守るものよ。子どももいないのに、夜遅くまで働いて。所のが何と言うか」
子はそのたびにさくをげた。
「すみません」
謝るしかなかった。働かなければ活は苦しい。けれど、働けばので責められる。そんな狭い所で、子は毎を必に過ごしていた。
そして、その平凡に見える通勤のに、すでに恐ろしい線が潜んでいた。
子が毎朝乗るバスの運転は、佐藤茂という男だった。
43歳。独。バス会社に勤めて15のベテラン運転で、同僚たちからの評判は悪くなかった。
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乗客への対応は丁寧で、全運転をがける。数はないが、仕事ぶりは真面目だった。
佐藤は1暮らしのアパートで、規則正しい活を送っていた。休も特に誰かと会うわけではない。本を読み、所を散歩し、夜になると記をつける。周囲の々は、彼を「し変わっているけれど、悪いではない」と見ていた。
昭534、子がに就職し、そのバス線を使い始めたから、佐藤の常に静かな変化が訪れた。
毎朝715分、同じ留所から乗ってくる若い女性。清楚な装、控えめな化粧、丁寧な挨拶。子がバスのステップをがるたびに、佐藤は運転席のバックミラー越しにその姿を確認するようになった。
「おはようございます」
子が軽くをげる。
佐藤はいつも通りの笑顔で答えた。
「おはようございます」
最初は、ただの顔なじみの乗客だった。のには「元にお気をつけください」と声をかけ、寒いにはをしめる。それは、親切な運転と乗客の自然な関係に見えた。
しかし、をねるごとに、佐藤ので何かが変わっていった。
子が乗るがづくと、胸が鳴った。留所に子の姿が見えると、した。反対に、子が乗ってこないは、1気分が沈んだ。
休なのか。体調が悪いのか。それとも別の理由なのか。
佐藤ののは、子のことで埋まっていった。
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