"214号室の沈黙" 第1話
26、名古の静かな区で、警察がい解決できなかった失踪事件が起きた。
方が分からなくなったのは、ゆり子、33歳。
彼女は名古内にあるさなホテルで客係として働いていた。夜勤を終えたはずの朝、彼女は忽然と姿を消した。警察は周辺の公園、空き、林、廃墟、通、ゴミ置きまで調べた。ゆり子の自宅も確認し、族や元夫、同僚にも話を聞いた。
けれど、誰もいつかなかった。
彼女が毎働いていた所のに、答えが隠されているとは。
そのホテルは、名古駅からそれほどくない所にあった。名はソナタホテル。1970代に建てられた古い建物で、4階建て、客は32。1階にはさなレストランがあった。
豪華なホテルではなかった。
壁はし古く、廊の照も控えめだった。けれど清掃はき届いており、料もかったため、ビジネスマンや予算を抑えたい観客、には若いカップルが利用していた。
ゆり子は、そのホテルで5働いていた。
婚しており、ホテルから20分ほどれたさなアパートで1暮らしをしていた。子どもはいなかった。私活を職で話すことはなく、同僚たちは彼女を物静かで真面目な女性だと見ていた。
ゆり子はいつも通りに勤した。
平を言わず、与えられた仕事を黙々とこなし、勤務が終わると静かに帰っていく。
広告
職で誰かと親しく群れることもなかったが、仕事ぶりには信頼があった。
彼女は週3回、夜勤に入っていた。
夜勤は午11に始まり、午7に終わる。廊の清掃、チェックアウトの部の確認、しい宿泊客を迎えるための準備。夜のホテルでう仕事は、静かでありながら体力を使うものだった。
その夜も、ゆり子はいつも通りに勤した。
19991015、曜。
寒く、のるだった。
気温は12度までがり、空は1だった。午6頃からり始めたは、夜になっても止まなかった。濡れたに灯が反射し、ホテルの入にはさなたまりができていた。
ゆり子は午1045分にホテルへ着いた。
スタッフ用の更で、青いドレスといエプロンの制に着替えた。ロッカーを閉める音がさく響く。彼女は清掃カートを押しながら、いつものように2階へ向かった。
その夜、ホテルには23の宿泊客がいた。空は7。朝にチェックアウトする予定の客も3組いたため、ゆり子は部の確認と準備をめなければならなかった。
午1110分、もう1の従業員が勤した。
今田忠雄、41歳。
彼は清掃員兼設備係としてホテルで7働いていた。きな部の清掃、ゴミし、簡単な修理、設備点検などが主な仕事だった。背はく、黒い髪とさな目をしており、同僚とはほとんど話さなかった。
広告
その、忠雄は10分遅刻していた。
夜勤マネージャーが注したが、忠雄は何も言わず、具を持ってへ向かった。湯器の点検をするためだった。
午0頃、1の宿泊客がフロントに話を入れた。
隣の部がうるさい、という苦だった。
夜勤マネージャーはフロントの話を置くと、2階にいるゆり子へ確認を頼んだ。ゆり子は作業のを止め、3階へがり、307号のドアをノックした。
返事はなかった。
廊には静けさが戻っていた。
ゆり子はしばらくを澄ませたあと、問題はないと判断し、再び2階へ戻った。
午1頃、忠雄がからがってきた。
2階の廊で、彼はゆり子と会った。その瞬を、廊の監カメラが記録していた。映像ので、忠雄はゆり子に何かを話しかけている。ゆり子はさくうなずいた。
その、2は別々の方向へ向かった。
ゆり子は214号へ。
忠雄は階段の方へ。
これが、ゆり子がきている姿を捉えた最の記録となった。
午7、勤マネージャーが勤した。
夜勤マネージャーはフロントで簡単な引き継ぎをった。宿泊客から騒音の苦があったが、そのは静かだったと説した。きな問題はなかったという報告だった。
そこに、ゆり子の名はなかった。
午720分。
勤マネージャーは2階の廊にがった、清掃カートがまだ置かれていることに気づいた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51