"214号室の沈黙" 第2話
カートには替えのタオルやシーツ、清掃用具が積まれたままだった。
最初、彼はゆり子が片付けを忘れたのだとった。
しかし、ゆり子はそういうミスをするではなかった。
マネージャーは廊の内線話を取り、スタッフへ話をかけた。呼びし音は鳴ったが、誰もなかった。
彼はさく眉をひそめ、更へ向かった。
扉をけると、部のは静かだった。ロッカーのにはない。ゆり子のロッカーを確認すると、私物のバッグが置かれていた。制もそこにあった。
だが、本の姿だけがなかった。
マネージャーはフロントに戻り、従業員たちへ確認した。
「誰か、さんを見なかったか」
誰も見ていなかった。
ゆり子が作業するはずだった部も確認した。2階、3階、空、リネン、階段、トイレ。彼女はどこにもいなかった。
午8、マネージャーは警察に通報した。
警察は午830分にホテルへ到着した。2の警察官が建物に入り、まずフロントで事を聞いた。次に、客やスタッフ用の通、更、を確認した。
夜勤マネージャーは、午2頃にゆり子を見たと話した。
「2階を清掃していました。丈夫かと聞いたら、丈夫ですと答えました。そのは見ていません。めに帰ったのだといました」
警察官はその言葉をメモした。
勤マネージャーは、ゆり子が予告なく退勤するようなではないと説した。
広告
もし体調が悪ければ、必ず誰かに言う。私物を置いたまま帰ることもない。
次に、警察は今田忠雄から話を聞いた。
忠雄は落ち着かない様子で子に座ったが、声はく平坦だった。
「午1頃、2階でさんを見ました。214号の球を交換する必があると伝えました。彼女は分かりましたと言いました。そのは見ていません。午5までで作業し、そのはホテル周辺を清掃しました。午7に仕事を終えて帰りました」
警察は監カメラを確認した。
カメラは1階と2階の廊、ロビー、駐にだけ設置されていた。3階と4階、、スタッフ用階段にはカメラがなかった。
最の映像は、午1頃の2階廊だった。
ゆり子が忠雄と話している。
忠雄が何かを伝え、ゆり子がうなずく。
その、ゆり子は214号へ入っていく。
しかし、カメラの位置の関係で、彼女がその部からたかどうかは映っていなかった。
警察は214号を確認した。
部はきれいにっていた。ベッドは乱れていない。タオルはしいものに替えられていた。浴も清潔で、目った異常はなかった。
宿泊客にも話を聞いた。
誰も鳴を聞いていなかった。
誰も争う音を聞いていなかった。
ほとんどの宿泊客は眠っていた。
その、警察はゆり子のアパートを確認した。玄関の鍵は閉まっており、内に争った形跡はなかった。
広告
財布や活用品もそのままだった。盗の痕跡もない。
阪にむゆり子の両親にも連絡が入った。
両親は、2週ほど娘と話していないと言った。それは特別珍しいことではなかった。ゆり子はに1回ほど、アパートくの公衆話から話をかけてくるだけだった。
翌、両親は名古へ来た。
母親は泣き続けていた。
父親は表をくしたまま、ほとんどをかなかった。
失踪から3が過ぎる頃、警察は単なる無断欠勤ではないと考え始めた。
ゆり子の座はいていなかった。
誰にも話していなかった。
目撃報もなかった。
彼女は、夜勤にホテルので姿を消した。
それだけが、はっきりしていた。
警察は、ゆり子の関係を調べ始めた。
同僚たちは、彼女を物静かな女性だったと説した。職に親しい友はいなかった。私活についても、ほとんど話さなかった。
誰とも交際している様子はない。
敵がいるようにも見えない。
ただ、ある女性従業員は、ゆり子が々しそうに見えることがあったと話した。理由を聞いても、ゆり子は笑ってごまかすだけだった。
別の同僚は、ゆり子がよく残業していたと証言した。アパートの賃と、婚に残った借を返すために、おが必だったという。
警察は元夫も調べた。
元夫は京にんでおり、2に再婚していた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51