"900円の復活定食" 第1話
俺は今、24、何もっていない。
正確には、う暇がなかった。
腹の奥が空っぽになりすぎて、もう空腹なのか眠気なのか、体の覚がよく分からなくなっている。胃は静かに縮こまり、の芯だけがぼんやりい。だが、この、目のに運ばれてくる定を見た、俺は本気で笑うことになる。
俺の名は戸田。
40歳、独。取り17万円のホテル設備管理員だ。
朝9から翌朝9までの24勤務。文字にするとたったそれだけだが、実際にそのを体で過ごすと、1がまるごと職にみ込まれる覚になる。
そのの朝も、俺はいつものようにホテル裏の通用へ向かった。正面玄関とは違い、裏には客の華やかな空気はない。搬入のコンクリートには朝の気が残り、業者用の台が壁際に並んでいる。通用のい扉をけると、建物のの空気がふっと変わった。
く械の匂いがする。
そこから奥へみ、防災センターに入る。壁には各階の監盤、空調の表示、非常放送の器が並んでいる。ホテルの表側が照とりでえられた空なら、ここは裏側の臓みたいな所だった。
奥のデスクでは、作業着姿の男性がコップのコーヒーをんでいた。
設備の司、野さんだ。
50代のベテランで、設備関係の資格はだいたい全部持っている。
広告
気も空調も排も消防も、困ったは野さんに聞けば抵のことは返ってくる。素で入った俺にとっては、司というより保護者みたいなだった。
「戸田君、おはよう。今、満予定だから呼ばれることいかもね」
野さんはコーヒーを片に、いつもの落ち着いた声でそう言った。
俺は鞄を元に置き、軽くをげた。
「おはようございます。解しました。よろしくお願いします」
野さんはさく頷いた。
呼ばれることがい。
勤して2秒で、今の運命を告げられた気がした。
ロッカーに向かい、私から作業着に着替える。袖を通し、胸の名札を確認し、全靴の紐を結ぶ。その作をしながら、のでぼんやりった。
ここから24、ずっと俺の番だ。
丸1帰れない。
よく考えるとすごい仕事だ。朝来て、昼を越えて、夜を越えて、また朝になって、それでやっと終わる。世のが仕事を終えて帰り、呂に入り、飯をって寝て、また起きて勤する、俺はずっとこのホテルのどこかにいる。
だが、仕事だからやるしかない。
防災センターに戻ると、今の引き継ぎを確認した。から残っているさな具、点検予定、客の状況。満予定のは、チェックアウトからチェックインまでのが特に忙しい。部を空けて、清掃して、次の客を入れる。
広告
そのいに具が見つかれば、設備が呼ばれる。
午は設備の常点検から始まった。
館内を歩き、械を確認し、各階の共用部を見て回る。照の切れ、異音、漏の跡、空調の表示。客が気づくにこちらが気づかなければならない。派な仕事ではないが、見落とすとで面倒になる。
廊を歩くたび、カーペットが全靴の底に沈む。客フロアには清掃スタッフのワゴンが並び、リネンの匂いと洗剤の匂いが混ざっていた。
午の点検を終えたのは、昼12をし回った頃だった。
ようやく昼休憩に入る。
防災センターの子に腰をろすと、背が気にくなった。デスクの引きしをける。奥からプロテインの袋とシェーカーを取りした。
最、しいすぎていた。
だから昼はこれだけにするつもりだった。
「気休めだけど、やらないよりマシじゃん」
誰に言うでもなく呟き、シェーカーにとを入れて振る。でが溶ける音がする。蓋をけて、ぐっとんだ。
甘いような、っぽいようながに広がる。
「ま、こんなもんか」
うまくはない。
でも腹はし落ち着いた。
夜は普通にえばそれでいい。
そのの俺は、まだそうっていた。
ホテルのチェックアウトのピークが過ぎた12半。
防災センターの内線が鳴った。
受話器を取ると、清掃スタッフのリンさんの声がした。
「戸田さん、805号のテレビが映らないです」
リンさんはいつも声がるい。満のでも、忙しさを表にさないだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 208 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 216 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 57