"母を捨てた凍夜" 第5話
話は方に切れた。
恵子は受話器を持ったまま、呆然とち尽くした。
その、廊を歩いていた吉田が事務に顔をした。
「どうしたんですか、佐藤さん」
恵子は震える声で、話の内容を説した。
吉田は顔をしかめた。
「また、そういう族か」
彼はいため息をついた。
恵子は、当然、施設として拒否するものだとった。
しかし吉田は、信じられないことを言った。
「佐藤さん、今夜、さんをにしてください」
「え?」
恵子は聞き返した。
吉田は事務机にを置き、い声で続けた。
「族が引き取らないなら仕方ない。うちも慈善事業じゃないんだ。はる子さんを起こして、の方向に歩かせてください。あとはらない」
恵子は言葉を失った。
「でも施設、さんは認症です。真の夜に1でにすなんて」
「これ以うちで抱えられない。族が悪いんです。私たちのせいじゃない」
吉田の声はたかった。
恵子は何も言えなかった。
その夜、恵子はもできなかった。
施設の言葉がので何度も繰り返された。
はる子さんをにす。
真の夜に、認症を患う78歳の女性を1でへ。
それは、ねと言っているのと同じだった。
恵子は護師として10以働いてきた。齢者の命を守ることが自分の仕事だと信じてきた。
それなのに、今、自分は何をしようとしているのか。
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午11過ぎ、恵子ははる子の部のにっていた。
が震えていた。
ドアをけると、はる子は布団ので静かに眠っていた。穏やかな寝顔だった。
恵子は瞬、このまま何もせず戻ろうかとった。
しかし、吉田の顔が浮かんだ。
逆らえば自分が職を失う。母親を養わなければならない。恵子にも守るべき活があった。
「はる子さん」
恵子はさな声で呼びかけた。
はる子はゆっくり目をけた。
「あら、恵子さん。どうしたの?」
恵子は唇を震わせながら、嘘をついた。
「はる子さん、娘さんが迎えに来ていますよ」
その言葉をにした瞬、胸が痛んだ。
はる子の顔がぱっとるくなった。
「由紀子が? 本当?」
「はい。玄関で待っています。さあ、きましょう」
恵子は、はる子のを取った。
はる子は嬉しそうに布団からた。い着を羽織り、元には施設用のスリッパを履いた。
「由紀子が来てくれたのね」
はる子は何度もそう呟いた。
恵子は答えられなかった。
2は誰もいない廊を静かに歩いた。
夜勤のの職員は休憩だった。廊の蛍灯は暗く、音だけがさく響いていた。
玄関に着くと、恵子は鍵をけた。
は真っ暗だった。
気温は0度くまでがっていた。たいが玄関に吹き込み、はる子の細い肩を震わせた。
はる子はを見て首をかしげた。
「由紀子は?」
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「えっと……もうし先で待っているそうです。あのをまっすぐけば会えますから」
恵子は震える声で言った。
はる子は議そうな顔をしたが、恵子の言葉を信じた。
「じゃあ、ってくるわね」
はる子はスリッパのままへた。
恵子はそのろ姿を見つめた。
はる子はゆっくりと歩き始めた。暗いへ、1で。
恵子は玄関のドアを閉めた。
鍵をかけた。
そしてそのに崩れ落ちた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
涙が止まらなかった。
しかし、はる子にはもう聞こえなかった。
はる子は暗いを歩いていた。
周囲にはほとんど灯がなかった。かりだけが、をぼんやり照らしていた。
「寒いねえ」
はる子は着をく引き寄せた。
けれど、い着ではの寒さを防ぐことはできなかった。の指先はすぐにたくなり、元のスリッパは湿ったを踏むたびに汚れていった。
「由紀子、どこにいるの?」
はる子は娘の名を呼んだ。
返事はなかった。
は2つに分かれていた。
へけば町の方向。へけばの方だった。
はる子はち止まり、暗の先を見た。くにさなかりが見えた気がした。
「あそこかしら」
はる子はのを選んだ。
それは、くの民のかりだった。
はる子はそのを目指して歩き続けた。
はだんだん細くなっていった。舗装されたかられ、やがてのになった。
スリッパはで汚れ、はたさで覚を失っていく。
何度もにつまずき、転びそうになった。
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