"母を捨てた凍夜" 第10話
幸子は黙った。
本は続けた。
「なぜ、そこまでお母様を邪魔にったんですか」
幸子の目がたくった。
「邪魔ではありません。ただ、現実に無理だったんです。施設費に15万円。義母のは12万円。差額の3万円を私たちが払わなければならない。子ども2の教育費もかかる。私たちだって活が苦しいんです」
「では、なぜ最初から施設に入れたんですか」
「認症がんで、では見られなくなったからです」
本は別の類を取りした。
幸子の座の記録だった。
「あなたの座には、毎かなりの額が入されていますね」
幸子の顔がこわばった。
「それは私のパート代です」
「パート代にしてはすぎませんか。に20万円以あります」
幸子は何も答えなかった。
本はさらに追及した。
「調べました。お母様の座から引きしていたのは、あなたですね」
幸子の顔が青ざめた。
「それは施設費を払うために……」
「施設費は2ヶ分滞納していました。では、このおはどこへ?」
幸子は黙った。
本は真実を突きつけた。
「あなたは、お母様のを自分のために使っていた。施設費は払わず、お母様のを横領していた」
幸子はちがりかけた。
「横領じゃありません。義母の世話をしていたんです。その対価として……」
「施設に入れて、度も面会にかなかったのに?」
広告
幸子は言葉に詰まった。
本はたい声で言った。
「あなたはお母様を利用していた。を取り、邪魔になったらにさせた」
幸子は震える声で言った。
「違います。私はただ……」
「ただ、何ですか?」
幸子は子に座り込み、さな声で言った。
「義母がいなくなれば、の続きをしばらく放置できる。数ヶはおが入ってくる。それで子どもの塾代を……」
本は言葉を失った。
この女性は、義母の命よりもおを優先したのだ。
その頃、由紀子は警察から連絡を受けて駆けつけていた。
母親の遺骨が見つかったこと。
倉庫で凍していたこと。
そして、幸子と武志が取り調べを受けていること。
全てを聞いた由紀子は、そので泣き崩れた。
「お母さん……お母さん……」
由紀子は何度も母親の名を呼んだ。
警察官が支え、子に座らせた。
本は由紀子に話を聞いた。
「お母様のことを教えてください」
由紀子は涙を拭いながら、しずつ話し始めた。
母がどれほど族のために尽くしたか。
姑に20仕えたこと。
自分をにしてまで、兄を学にかせたこと。
父がくなった、遺産を1円ももらえなかったこと。
それでも文句1つ言わなかったこと。
「母はいつも言っていました。族が幸せならそれでいいって。でも……族は母を幸せにしてあげなかった」
由紀子の声は震えていた。
広告
「私もです。私も母を守れなかった。お兄ちゃんにもっとく言えばよかった。母を私が引き取ればよかった」
本は静かに言った。
「あなたは悪くありません」
由紀子は首を横に振った。
「いいえ。私も同じです。貧しいから母を助けられないと諦めた。でも本当は、諦めたくなかった」
由紀子は顔を覆った。
本は、この娘だけが本当に母をしていたのだとじた。
その、遺言の跡鑑定が正式にわれた。
結果は、偽造。
跡は茂のものではなく、武志のものだった。
茂の、武志は遺言を偽造し、全ての財産を自分のものにしていたのだ。
鑑定結果を突きつけられた武志は、顔面蒼になった。
「父がくなった、遺言はありませんでした」
やがて武志は状した。
「でも、男の私が全て相続するのが当然だとっていました。母も妹も何も言わないだろうと」
「それで遺言を偽造した」
「はい。父の字を真似てきました」
本は厳しい声で言った。
「あなたは母親を騙し、妹を騙し、財産を横領した。そして母親が邪魔になったら施設に入れて放置した」
武志は泣きながら言った。
「刑事さん、私はいなんです。母に申し訳ないとっていました。でも妻に逆らえなくて……」
本は吐き捨てるように言った。
「いのではありません。あなたは卑怯なだけです」
武志は何も言えなかった。
全ての事聴取が終わり、本は事件の全貌をまとめた。
19961215の夜。
幸子が吹荘に話をかけ、はる子を施設からすよう求した。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
十字の紙片と売られた生家
「母さん、老人ホームに入れ。この家も売る」息子夫婦はカナダ移住を前に、相場の半値以下の査定書と山奥の隔離施設のパンフレットを突きつけてきた。共働きで多忙な彼らに代わり、十年間孫娘を育て上げ、遺産から数百万円を用立ててきた私への仕打ちがこれだった。絶望に沈む私の手に、高校生の孫娘が震えながら押し込んだのは、固く折られた「十文字のチラシの紙片」。「明日の朝までに、実印と通帳は絶対に渡さないで」。深夜二時、一人で開いたその紙には、全てを覆す戦慄の計画が記されていた。私は仏壇の隠し金庫に手を伸ばし――。祖父母と孫|介護2.4万字5 426 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 691 -
完結第21話
母を遠ざける姉の嘘
長野で一人暮らす母の介護を一手に担う姉から「母の体調が悪化するから来るな」と言われ、私は五年間帰省を控え、毎月五万円の仕送りを続けていた。だがある夜、母から五年ぶりに直接電話が入る。「まだ怒ってるの。あんたが私の顔も見たくないと言っていたと姉から聞いた」と母は怯えていた。直後に受話器を奪った姉は「母の被害妄想だ」と言い放つ。不審に思った私は姉に告げず始発の新幹線に乗り、五年ぶりに実家の引き戸を開けた。兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|介護3.2万字5 166 -
完結第20話
教室の最後列に座る元教員
定年退職した元教員の私は、一度も教えたことのない男子生徒の保護者会に、身元を偽って六年間通い続けていた。教室の最後列から見つめる先には、油まみれの作業着を着た父親が座っている。受付簿の不審な記録に気づいた校長から昇降口で問い詰められた帰り道、桜が散る坂道でその父親が私の前に立ちふさがった。二十四年前の元教え子だったその男は、振り返りもせず、私の背中に向けて「あの席、あと何年座るつもりですか」と低く告げ怒り|真実|親子関係|修羅場3.1万字5 122 -
完結第20話
祖母は十二年年賀状を書いてない
八十歳を迎えた祖母のため、私はいとこたちと過去十二年分の年賀状を集めて記念のアルバムを作った。毎年元旦に届く「元気に暮らしています、トマトがたくさん実りました」という三行は、遠方で暮らす私たちが実家の無事を疑わずに済む確かな証拠だった。だが親戚一同が集まる祝宴の席でアルバムを開いた瞬間、祖母は整った文字を見つめ、十二年間一度も年賀状など書いていないと言い放った。親族の視線が一斉に、実家の近くで暮らす叔母へと向かう。孤獨|親子関係|介護|認知症3.0万字5 98 -
完結第24話
妻の手術翌朝、七通の解約通知
妻が胆嚢ポリープの手術で入院した日、私は仕事を優先し「自分で処理しろ」と見舞いを断った。だが翌朝、私の携帯にマンションの駐車場、クレジットカード、父のデイサービスを含む七通の解約通知が立て続けに届く。カードは店頭で弾かれ、ビルのゲート前で立ち往生した私は、妻の報復を確信して病室のドアを乱暴に開けた。点滴に繋がれた妻は、今すぐ元に戻せと詰め寄る私の目の前で、スマートフォンの画面を静かに伏せた。怒り|夫婦|介護|修羅場3.7万字5 193 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 1026 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176