"蜂蜜先生の救命列車" 第7話
俺はをに寝かせ、胸骨圧迫を始した。
周囲が気に静まった。
の母親は泣きながら名を呼んでいる。
「頑張って!」
「神様、この子を助けて」
「私たちにできることがあったら何でもします」
さっきまで満を言っていた男が、AEDを抱えて戻ってきた。
「持ってきたぞ!」
「ありがとうございます」
俺はAEDを受け取り、音声ガイドに従いながら処置をめた。
胸骨圧迫。
AED。
呼吸の確認。
井が俺の指示を受け、確に補助してくれた。
内はまさに戦だった。
しかしそこには、もう誰かを責める空気はなかった。
みんなが、目のの命を救うために何かをしようとしていた。
やがて、の拍は回復した。
俺はく息を吐いた。
「戻りました」
母親がそのに崩れ落ちるように泣いた。
俺はしばらくのそばに残り、井に指示をしながら、の具の悪い乗客のケアにもあたった。
齢の女性が喉の渇きを訴えれば、くの女の子が母親から銭をもらい、自販売へった。
「はい、おばあちゃん。これんで」
「いいのかい。助かるよ」
助けいの輪が、内全体に広がっていった。
その様子を、1の青がスマホで撮していた。
俺はその、気づいていなかった。
彼は、病相に必で働く俺の姿を撮し、「蜂蜜先、る」というようなタイトルでSNSに投稿していた。
息ついたところで、その青がづいてきた。
広告
「蜂蜜先、気だよ。見てよ、このいいねの数」
彼はスマホ画面を見せた。
そこには、俺が内で処置をしている画が映っていた。
俺は眉をひそめた。
「俺のことを撮っていたのか」
青は慌ててをげた。
「ごめんなさい。許を取らずに。嫌なら消します。でも、すごい再数なんです」
聞けば、彼は学で、自分の常を撮した画をSNSに投稿しており、最ようやく収益化され始めたところだという。
俺はし考えた。
顔がはっきり映っていない。
名もていない。
そして、この画が誰かの助けいのきっかけになるなら、悪いことばかりでもない。
「構わないよ。今はし休ませてくれ。へとへとなんだ」
俺はボックス席の隅に戻り、窓にをもたせかけた。
音は相変わらずかった。
目を閉じると、体の疲れが気に押し寄せてきた。
そうして俺のらないに、蜂蜜先の名は広がっていった。
鳥の鳴き声で目が覚めた。
いつのにか眠っていたらしい。
夜がけかけていた。はかなりりになっている。窓のはいで、濡れたホームが朝のを反射していた。
だが、これだけ激しいが続いたのだ。
各で災害級の被害がていてもおかしくない。
この駅にいる患者たちは、いつ病院へ運んでもらえるのか。
俺がを起こした、くから複数の救急のサイレンが聞こえた。
広告
俺はすぐにホームへびした。
6ほどの消防隊員が担架を抱え、ホームにがってくる。
俺はきくを振った。
「こっちです!」
隊員たちを駅員休憩へ案内する。
「ここに度の血糖を起こした患者が1います。それから、あちらの両に度止した患者がいます。どちらも応急処置は済ませていますが、刻もく病院へ運んでください」
隊員の1が俺を見た。
「ご苦労様です、蜂蜜先」
俺は瞬、言葉を失った。
この呼び名は駅のだけだとっていた。
隊員はし笑った。
「ネットで蜂蜜先の活躍が話題になっていますよ。この辺に限れば、急昇ランキング1位ってところでしょうか」
「なんだか面倒なことになったな」
俺はさくつぶやいた。
だが今はそれどころではない。
「さんと同じ救急に乗ってもいいですか」
「もちろんです。無線で話しただけですが、松医院の院も蜂蜜先に会いたがっています」
俺はが横になった救急に、恵と共に乗り込んだ。
救急は松医院へ向かった。
にはまだたまりがく、ところどころに折れた枝が落ちていた。救急ので、は識を保っていたが、疲れきった顔をしていた。
恵はのを握り続けている。
俺はモニターとの様子を確認しながら、必な報を隊員に伝えた。
松医院の救急搬送に到着すると、院の松が迎えにていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
「死産」と告げた院長と20年目の出生記録
20年前、出産した娘を「死産でした」と告げられた私・佐藤しず子。しかし私は、麻酔の中で確かに聞いた産声を一度も忘れられなかった。 真実を確かめるため、私は清英産婦人科医院の清掃員として20年間働き続け、誰にも気づかれず院内の秘密を探ってきた。そんなある夜、若い看護師から「まだ間に合います。あなたの娘さん生きています」と書かれた紙を渡される。 やがて地下の保管庫へ忍び込んだ私は、自分の出産記録の隣に「佐藤女児――転送」と記された手帳を発見する。 さらにそこには複数の新生児と金銭の記録まで残されていた。娘を奪ったのは誰なのか。そして病院は20年間、何を隠してきたのか。見下され続けた“掃除婦”は、集めた証拠を手に院長・安藤剛と対峙する――。真相|修羅場2.1万字5 407 -
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 1809 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 137 -
完結第20話
偽りの仕送りと緑の通帳
専業主婦の佐藤真美は、長年にわたり傲慢な義母・君代から「無収入の居候」と見下され続けてきた。夫の減給により進学を断念し、誇りを持って介護職に就いた二十歳の娘・奈々までも、義母は「高卒の無能な孫」と親戚の前で嘲笑する。さらに君代は「長男の嫁・恭子を見習い、毎月十五万円を仕送りしろ」と理不尽な要求を突きつけてきた。耐えかねた真美が恭子に相談すると、長男一家の仕送りに隠された信じがたい事実が判明する。義母の言う通り「見習う」ことを決意した真美は、夫の浩一を巻き込み、スマートフォンに収めたATMの振込画面の写真と、タンスの上の空の茶封筒を使ったある計画を仕掛ける。だが、疑念を深めた義母が「緑の銀行通帳」を差し出し、記帳を命じたことで事態は急転する――。嫁姑|真相3.0万字5 721 -
完結第30話
一万八千円の伝票
病を克服し、身なりを隠して自らのホテルへ宿泊客として訪れたオーナー・佐藤かず子。亡き夫と四十年にわたり心血を注いできた老舗ホテルは、かつての温もりを失い、強欲な支配人・中村の私欲に侵されていた。 きっかけは、わずか千八百円の粗末な昼定食に突きつけられた「一万八千円」の法外な伝票。中村たちは気の弱そうな高齢客を狙って組織的なぼったくりを繰り返し、さらにはホテルそのものを外資系ファンドへ売り飛ばそうと目論んでいた。 無力な老婆と侮られ、嘲笑と脅迫を受けるかず子。だが彼女の手には、亡き夫の誇りである一本の「蒔絵万年筆」と、深夜に掴んだ決定的な「裏帳簿」の証拠があった。誇りを泥靴で踏みにじられた元女将の、静かなる大反撃が今、幕を開ける――。職場逆転|真相4.6万字5 6317 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95