"青いハンカチの花嫁" 第1話
「ずっと探していました」
純のウェディングドレスを着た嫁が、マイクを握りしめたまま震える声でそう言った。
その言が落ちた瞬、華やかな披宴会の空気は、瞬にして凍りついた。
井のシャンデリアはきらびやかに輝き、テーブルのには鮮やかなが飾られていた。祝福の拍と笑い声で満ちていたはずの空に、突然、い沈黙がりた。
数百の招待客の線が、嫁である由美の点に集まった。
郎席に座っていた健の顔から、さっきまでの余裕に満ちた笑顔が消えた。親族席では、何事かと顔を見わせる々がざわめき始めていた。
俺は鳴りもしなかった。
泣き叫びもしなかった。
ただ、子の膝のに置いたで、古びた青いハンカチを静かに握りしめていた。
あせた青いハンカチ。
端には、さなのの刺繍がある。布は何度も洗われ、ところどころくなっていた。それでも、赤黒く残った染みだけは消えなかった。
それは10、俺が命と引き換えに守った女が、俺の流れる血を止めるために押し当ててくれたものだった。
砂の席から俺を見ろしていた郎の健は、数分まで勝ち誇ったような顔をしていた。
親友であるはずの彼は、俺からすべてを奪ったつもりでいた。
俺の歩く自由も。
広告
俺の未来も。
そして、俺が命がけで守ったあのの真実も。
健は、自分こそが由美の命の恩だと嘘をつき、彼女のを奪い取った。
「由美、どうしたんだい?」
健は慌ててちがり、由美の元のマイクを取りげようとした。
「急に気分でも悪くなったのか?」
無理に作った笑顔が、自然に引きつっていた。
親族席からは配そうな声ががる。そので、健の母・慶子が嫌そうに扇子をぱちんと鳴らした。
「せっかくの披宴なのに、何を言いしているの。みっともないわね」
しかし由美は、健の言葉にも、義母になるはずだった女性のたい声にもを貸さなかった。
彼女の線は、会の番ろ、目たない隅の席にいる俺にまっすぐ向けられていた。
そのきな瞳から、粒の涙がこぼれ落ちていた。
健は由美の線の先に俺がいることに気づいたのだろう。顔がみるみる青ざめていった。彼は司会者に鋭い線を送り、を引に続けるよう促した。
「さ、さあ、婦はし緊張されているようです。皆さま、温かい拍を……」
司会者が慌ててフォローを入れるが、会のざわめきは収まらなかった。
俺はなぜ今まで、健の嘘を黙っていたのか。
それは、由美の幸せを願ったからだった。
子の自分が名乗りれば、彼女は恩義から俺を見捨てられなくなる。
広告
まだ若い彼女のを、、自由な男のそばに縛りつけてしまう。
健はかつて、俺にそう言った。
「おは子なんだから、彼女を幸せにできない。俺が代わりに彼女を支える。それが番いい方法だ」
その言葉を信じ、俺はを引く決をしていた。
しかし今、披宴が始まる、控の裏で俺は聞いてしまった。
聞いてはならない、健の話の声を。
「あんな世らず、恩だって言えばすぐに騙せる。親父の会社さえに入れば、あとはどうでもいいんだよ」
その言葉を聞いた瞬、俺ので何かがたく固まった。
健は由美をしてなどいなかった。
ただ、彼女の実の財産と位が目当てだったのだ。
俺は自分の沈黙が由美を幸にすることに、ようやく気づいた。
会のざわめきの、由美がゆっくりと歩きした。いウェディングドレスの裾を引きずりながら、俺の席へ向かってくる。
「おい、由美、どこへくんだ?」
健が焦った声をして止めようとしたが、由美は彼のを振り払った。親族たちの驚く声が響く。
由美の父である正社が、静かにちがった。娘の背をじっと見つめている。その顔には驚きと、そして父親としてのい警戒が浮かんでいた。
俺は静かに子のブレーキにをかけた。
由美が俺の目のでち止まる。
10、ので怯えていたあのさな女が、今は美しいの女性になっていた。
「違いじゃないかな、由美」
広告
おすすめ作品
-
完結第22話
側溝の底のGPS
六年前に娘を事故で亡くし、近所から「不注意な母親」と後ろ指を指されながら暮らしてきた私。ある朝、向かいの名士宅との境界にある側溝の泥から、泥まみれの「娘の見守りGPS」を掘り出した。壊れた端末のログを開くと、六年間、豪雨の深夜になるたび、向かいの家のWi-Fiと通信を繰り返していた。問い詰めた夫が無言で開けた物置には、壁一面に貼られた隣家の行動記録と、五年間密かに改造されていた配管図面があった。ミステリー|因果応報|裡切られた|真相3.3万字5 223 -
完結第11話
五十万円の便利妻
義父の四十九日を終えた日曜の朝、商社の係長へ昇進した夫から緑の離婚届を突きつけられた。「腰を壊したお前は出世の邪魔。手切れ金50万で出て行け」。4年間、排泄の世話まで一人で背負い続けた私を、夫は「無償の介護要員」として切り捨てたのだ。愛人とタワマンへ移る気満々の夫。だが、冷え切った私の手元には、四年間の一切を記した【介護日誌】と、義母から託された反撃の鍵が握られていた。因果応報|裡切られた|介護|金銭問題|不倫1.7万字5 105 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 1809 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第12話
社長夫人と平社員の妻
夫が勤める製造会社の先代社長の遺児であり、全株式の六割を握る筆頭株主である白石遥。彼女はその正体を隠し、現場社員の妻として慎ましく暮らしていた。しかし、先代の跡を継いだ新社長の妻・藤崎麗華は、夫が平社員である遥を見下し、婦人会の席で髪を掴んで「奴隷」と罵倒する。耐えかねた遥が「では、社長を解任します」と告げると、麗華はあざ笑うのだった。数日後、遥の名の入った「臨時株主総会招集請求書」が会社に届き、夫が密かに集めていた四千万円の不正流用の証拠が突きつけられる。窮地に陥った社長夫婦の前に、本当の支配者の正体が暴かれるとき、冷酷な因果応報の幕が上がる。職場逆転|因果応報1.8万字5 228 -
完結第22話
恩人弁護士の不可解な書類
満員電車の切り取り動画で炎上し、派遣先を不当解雇された私を、着手金ゼロで救ってくれたのは小さな事務所の弁護士だった。彼の尽力で示談を勝ち取り日常を取り戻した二ヶ月後、私は元上司のパワハラを訴えた見知らぬ後輩の裁判資料を目にする。そこには、私が弁護士の相談室で泣きながら話したはずの告白が、そのまま証拠として並んでいた。震える手で開いたその裁判記録の送達先には、私を救った恩人弁護士の事務所名が記されていた。職場逆転|因果応報|裡切られた|怒り3.4万字5 395 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129 -
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 1024