"スズメバチ事故の遺言" 第5話
職員はさらに、松吉には若い頃から親しくしていた同業の友がいたと話した。
名は。
松吉と同じように蜂を飼っていた老で、2はまるで兄弟のように親しくしていたという。へ入り、しい蜂を探し、互いの蜜を分けい、町の祭りでは並んで酒をんでいた。
ところが、は松吉がくなった翌、突然桐原をれていた。
暮らしたを引き払い、養蜂もやめ、どこかへってしまった。
親友がくなった翌に、急に町をる。
桑名の胸に、暗い疑がまれた。
2はと松吉の関係について、さらに聞き込みをめた。
すると、いくつかの事実が浮かびがった。
2のには、昔から銭の貸し借りがあったらしい。困ったには互いに融通しっていた。ただ、最にその貸し借りがどうなっていたのかは、はっきりしなかった。
そしてもう1つ、ある養蜂仲がぽつりと漏らした話があった。
「松吉さんはくなる、自分の蜂をさんに譲るような話をしていたらしいんですよ」
「蜂を?」
「ええ。巣箱も具式も、さんに任せると。2ともでしたから、先のことを考えていたのかもしれません。でも結局、松吉さんは急にくなり、さんも翌に町をた。あの話がどうなったのか、私らにも分からないんです」
桑名は、この話を幸子にも確認した。
広告
幸子は驚いた顔をした。
「父が蜂をさんに? いえ、そんな話は1度も聞いていません」
のことはっていた。子どもの頃からによく来ていた、父の古い友だった。
しかし、蜂を譲る話も、の貸し借りの話も、幸子は何も聞かされていなかった。
娘にも告げず、松吉は何かをめようとしていた。
蜂を譲る約束。
古い借りを返すための。
自分がくなった付をいたメモ。
隠された注射器。
それらが、ばらばらの来事ではなく、1本の糸でつながっているのではないか。
桑名はそうじ始めていた。
桑名は次に、からてきた注射器に目を向けた。
なぜ、養蜂の作業に医療用の注射器が隠されていたのか。
誰がそれを使ったのか。
桐原のような方の町では、農や養蜂が畜や蜜蜂の病気の当てのために薬や注射器を使うことが、まったくないわけではなかった。畜の治療に関わる者なら、そうした器具を扱うこともできる。
だが、誰でも自由にに入れられるものではない。
桑名は考えた。
松吉の体には、蜂の毒とは別の薬物反応が記録されていた。
には注射器が隠されていた。
この2つが結びつくなら、松吉は蜂に刺されたに、誰かので何らかの薬を体に入れられていた能性がある。
その薬を扱えたは限られる。
広告
桑名と越は、町で注射器や薬を扱えるにあった々を調べ始めた。
診療所の関係者。
畜の治療に関わる物。
養蜂の病気や蜂の当てに詳しい者。
聞き込みは簡単ではなかった。
8ものことだった。記憶が曖昧になっているもい。には、くなった松吉のことを今さら掘り返されるのを嫌がるもいた。
「松吉さんは事故でくなったんでしょう。今さら何を調べることがあるんですか」
そう言ってを閉ざす者もいた。
それでも桑名は、根気よく町を歩き続けた。
1つの証言が別の証言とつながり、その証言がさらにしいがかりをむ。そうやって、8の桐原と松吉の最の々が、しずつ輪郭を取り戻していった。
そして、聞き込みをねるうちに、桑名はある物にき当たった。
松吉のの周りに関わっていた物のに、畜の治療のために薬と注射器を常に扱っていたがいた。
それは、ではなかった。
町でく畜を見てきた老いた獣医、田島だった。
田島は桐原と周辺のを半世紀く見て回ってきた、町でただ1の獣医だった。牛や馬、羊や鶏が病気になれば、のも夜も駆けつける。養蜂の蜜蜂が病気になったにも、相談に乗っていた。
つまり田島は、薬と注射器を自由に扱えるにいた。
しかも田島は、松吉ともとも若い頃からの古い友だった。
桑名は越と共に、田島のを訪ねた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第22話
側溝の底のGPS
六年前に娘を事故で亡くし、近所から「不注意な母親」と後ろ指を指されながら暮らしてきた私。ある朝、向かいの名士宅との境界にある側溝の泥から、泥まみれの「娘の見守りGPS」を掘り出した。壊れた端末のログを開くと、六年間、豪雨の深夜になるたび、向かいの家のWi-Fiと通信を繰り返していた。問い詰めた夫が無言で開けた物置には、壁一面に貼られた隣家の行動記録と、五年間密かに改造されていた配管図面があった。ミステリー|因果応報|裡切られた|真相3.3万字5 223 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51