"床下のミスキャンパス" 第4話
だが司の返答は、く断定だった。
「物証はあるのか」
「ありません」
「それで資産のの姉を容疑者線に載せられるとうのか。男関係の線を先に当たれ。おの勘で事件を引っ張ったら、署全体が困る」
笠は、それ以言い返さなかった。
しかし事件ファイルを放すこともできなかった。
公式ファイルとは別に、彼は古い黒い革の帳を1冊用した。
そこには、松本の釘の音、敷居の埃、ゴム袋、内側からかけられた鍵、畳部の板、澄の言い違いまで、事件に関わるすべての欠片がき移された。
帳の表には、ボールペンでく1だけ記されていた。
1998 世田 しおり
その帳は、やがて笠の個ロッカーへ、そしてには自宅の斎の引きしへ移される。
15、消えた妹の声を守り続けるために。
事件が起きてから数週、世田署の会議には、しおりの顔写真が貼られたホワイトボードが置かれていた。
写真のには、赤いマジックでこうかれていた。
1998325 藤堂しおり 22歳 方
しかし、そのに集まった刑事たちの表はかった。
1998当、桜町の宅には防犯カメラがほとんどしなかった。通り沿いのやコンビニには部設置されていたが、邸宅のあるの奥には、の目以に何もなかった。
広告
携帯話やPHSの通信記録も保期がく、しおりが最に使った能性のある公衆話の履歴は、事件を認したにはすでに消えていた。
DNA鑑定もまだ今ほど実務に広く使われていない代だった。
結局、捜査チームに残されたのは、きの聞き込み記録と、証拠になりきらない違だけだった。
事件は、凍りつくからすでに凍りつく準備をしていた。
失踪から5目になる頃、遺族と親類ので、失踪宣告を巡る対が始まった。
澄は、続きをでもくめたいと考えていた。狙いは、しおりの名義で凍結されている3億8000万円規模の資産だった。
方、しおりの叔母である神楽坂京子は、く反対した。
「遺体もないのに、どうしてあの子をんだことにするのですか。これは姉妹の問題ではありません。1のを、類1枚で消してしまうことになるのです」
京子は茶の師範だった。弟子の紹介で弁護士をて、失踪宣告の続きをしでも遅らせようとした。
その、桜町では奇妙な噂も広がっていた。
澄が毎晩、必ずあの畳部で眠っているという話だった。
寝ではない。
居でもない。
あの、事件の夜に笠が違を覚えた畳部だった。
澄は毎晩、その部の真んにい布団を1枚敷き、いつも同じ所に体を横たえた。
広告
その習慣は、15、1も狂うことなく続いた。
毎325になると、京子はい菊を持って邸宅を訪れた。
扉を叩くと、澄は扉をしだけけて言った。
「今もいらっしゃいましたね、おば様。しおりの部は今、散らかっていますので、ここまでにしてくださいませ。私もがつらいんです」
京子はそのたびにでを止め、郵便受けのに菊をそっと置いて帰った。
に戻ると、押し入れの奥にしまった箱を取りした。
箱のには、しおりの茶の具、子どもの頃の記帳、ミスキャンパスグランプリのパンフレット、そして20歳の誕にしおりがいたが入っていた。
の最には、こうあった。
おば様、あなたは私にとってお母様のようなです。いつまでもお元気で。
京子はその文を読むたび、畳のに膝をつき、しばらくけなくなった。
そして2005。
失踪から7が経ち、庭裁判所はしおりに対する失踪宣告を確定させた。
しおりの信託預、価証券、邸宅の敷持ち分は、澄のもとへ移った。
その、京子は茶教の扉をけることができなかった。
「あの子が、本当にこの世から消されてしまったような気分でした。もうあの子の名は、類のどこにもきていないのですもの」
その頃、澄は相続した資を元に、港区台でさなギャラリーカフェをいた。
の名は「景」。
の景というだと、彼女はに説した。
だが夜になると、澄は必ず桜町の邸宅へ戻った。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51