"消された登山日誌" 第4話
両側には々が茂り、すでに葉が始まっていた。
赤、黄、オレンジに染まった葉が、の陽を受けて輝いている。元では落ち葉が乾いた音をて、の匂いが胸いっぱいに広がった。
恵子はわず声をげた。
「本当にきれいですね。まだ序盤なのに、こんなに美しいなんて」
本は微笑んで答えた。
「これからもっと美しい景が待っていますよ。田さんの期待を裏切りませんから」
2は順調に登っていった。
本は々ち止まり、周囲の植物や景について説した。
「あのは楓です。あちらのはの植物で、ほら、くに見える並みが分かりますか」
恵子は本の識の豊富さにした。
さすが20以のベテランガイドだ。
このと緒なら、本当に全に登れる。
恵子はそう確信していた。
夕方6頃、2は5目のに到着した。
さな造ので、宿泊客は恵子たち以にもう1組の登者がいるだけだった。のには薪の匂いが漂い、ランプのかりがの壁を柔らかく照らしていた。
の管理は本の顔を見ると、親しげに声をかけた。
「本さん、お久しぶりです。今もお客さんですか」
本は笑顔で答えた。
「ええ、田さんをご案内しています。よろしくお願いします」
その夜、恵子はで簡単な夕を取った。
広告
温かい噌汁と握り飯。でべる事は、どんなご馳よりもおいしくじられた。
窓のには満の空が広がっていた。町では決して見ることのできない無数のたちが、黒い空に散りばめられている。
恵子は空を眺めながら、族のことをった。
誠と美穂は今頃、夕をべているだろうか。
美穂は写真を楽しみにしているだろう。
は頂にてる。
きっと素らしい景を見られる。
そういながら、恵子は布団に入った。
のには、の登者の寝息と、くでが々を揺らす音だけが聞こえていた。
しかし恵子は気づいていなかった。
本が々、自分を見つめる線に、普通のガイドとは違う何かが宿っていることを。
翌朝、1016。
恵子は朝6に目を覚ました。
のさな窓から朝が差し込んでいた。へると、たく澄んだ空気が肺いっぱいに広がる。の朝は静かで、鳥のさえずりだけが聞こえていた。
恵子は呼吸をした。
今は頂にてるだ。
期待としの緊張が胸ので混ざりっていた。
で簡単な朝を取った、恵子と本は発の準備を始めた。
本は装備を確認しながら言った。
「今は頂まで約6の程です。途、岩が続く区がありますが、ゆっくりめば丈夫です。
広告
私が先にきますので、しっかりついてきてください」
恵子は頷いた。
「分かりました。よろしくお願いします」
朝7、2はを発した。
最初の2は比較なだらかなだった。周囲の景は、よりさらに美しくなっていた。
葉が全体を覆い、まるで絵画のような景が広がっている。赤く染まった葉のから朝のが差し込み、のにまだらな模様を落としていた。
恵子は何度もち止まり、カメラで写真を撮った。
本はその様子を見ながら、優しく声をかけた。
「きれいでしょう。この期の青峰は本当に特別なんです。私は何度登っても飽きません」
恵子は笑顔で答えた。
「本当に素らしいですね。来てよかったです。本さんのおかげで、こんな景を見ることができました」
本はし照れたように笑った。
「そう言っていただけると嬉しいです。田さんのような方をご案内するのは、私にとっても楽しいんですよ。登をから楽しんでいる様子が伝わってきます」
2は歩きながら、さまざまな話をした。
本は自分の登経験について語った。
「私がガイドを始めたのは25歳のでした。もう20になります。こので育ち、このできてきました。は私にとってそのものなんです」
恵子は興そうに聞いていた。
「20ずっとガイドを続けてこられたんですね。
素らしいことだといます」
本はくを見つめながら言った。
「でも、々寂しいこともあります。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51