"8年目の生マイク" 第3話
それが、止まっていた事件を再びかす最初のだった。
翌朝、宇都宮警察署の犯係に、サイバー相談から1件の報が回ってきた。
「班、ちょっと見ていただけますか」
部の声に顔をげたのは、啓介班だった。
58歳。定を目に控え、髪は黒よりの方がくなっていた。だが目つきは鋭く、現を歩いてきた刑事特のさがあった。
は老鏡を先にかけ、モニターを覗き込んだ。
「8の失踪事件に関する報提供です」
部が説すると、の眉にいしわが寄った。
「本田さゆり……こいつは見覚えのある名だな」
彼は子を蹴るようにちがり、事件記録の保管棚へ向かった。古いスチールキャビネットの隅から、埃をかぶったファイルを取りす。
表には、あせたマジックでこうかれていた。
「19993 本田さゆり失踪事件 終結」
はファイルをいた。
そこには、8の担当捜査官がい圧でいた調が残っていた。
通報者、本田正弘。
妻がけ方に散歩へたまま戻らない。
の兆候なし。
しかし殺を示す物証も発見できず。
はページをめくりながら、当じたさな違をいしていた。夫である本田正弘の供述は、あまりにも滑らかだった。しみに暮れる夫としてはいすぎていて、まるで事に用された台本のようでもあった。
広告
けれど当は、決定な証拠がなかった。
その、若い刑事がカップラーメンを置いてづいてきた。
佐藤刑事、34歳。
は埃のついたファイルを佐藤の胸元に押し当てた。
「佐藤、これを見ろ」
「何ですか、班」
「8に管内で消えた女だ。俺にとっては、喉に刺さった骨みたいな事件でな。どうにもすっきりしないまま終わった」
はパソコンのスピーカーをオンにし、報提供者から送られてきた音声ファイルを再した。
じりじりというノイズのから、本田正弘の声が流れた。
「さゆり、おがあの、さえ閉じていれば……俺もあんなことまではしなかった。分かってるよな」
佐藤の目がきくいた。
「これ、あのアナウンサーの本田正弘じゃないですか」
「ああ。失踪者の夫だ」
は同じ区をもう度再した。
2度、3度。
気悪い声が、犯係のオフィスに響いた。
「さえ閉じていれば……」
佐藤は顎をさすり、い声で言った。
「くなった妻を恋しがる独り言にしては、ニュアンスが全然違いますね。まるで、脅しているか、んでいるようなぶりです」
は机を指で軽く叩いた。
「俺のにもそう聞こえる。だから匂うんだよ」
2はその夜、遅くまでオフィスに残った。
音声の息遣い、声のさ、「あんなことまでは」という言葉に込められたみ。業者による音声解析の配もめた。
広告
翌朝、は充血した目をこすりながら、再捜査請の類をき始めた。
タイトルのに、力を込めて記した。
「19993 本田さゆり失踪事件 再捜査請」
最初に洗い直すべきは、当の隣証言だった。
8に聞き流された声のに、今なら別のを持つものがあるかもしれない。
は古い調に記録された隣民の名を、1ずつ丁寧にき写していった。
止まっていた計が、再びき始めていた。
1999312午410分。
まだ漆黒のに包まれていた宇都宮の宅で、本田の玄関ドアがさな音をてていた。
本田さゆりは、い息を吐きながらへた。
いスニーカーの紐をしっかり結び、グレーのダウンジャケットの襟をわせる。その姿をけ方の牛乳配達員がくから見ていた。
それが、当の捜査記録に残された最の目撃報だった。
夫の正弘は、妻がかけたことにも気づかず、2階の寝で眠っていたと供述していた。午8を過ぎて目を覚まし、妻がいないことに気づき、30分に警察へ届けたという。
2007220、午。
と佐藤は、古いブロック塀が続く宅のにっていた。8の捜査記録に名だけが残っていた隣民、しずのを訪ねるためだった。
はので度咳払いをし、インターホンを押した。
「ごめんください。警察の者ですが」
しばらくして、鉄のがぎいぎいと音をてていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51