"嘘葬りの豆腐店" 第6話
そう自分に言い聞かせても、眠ることはできなかった。
翌朝、はがっていたが、空はまだく曇っていた。
恵子が先を掃除していると、隣のの戸がく音がした。静が腰を押さえながらボイラーの方から歩いてきた。
静は辺りをきょろきょろ見回すと、ボイラーの入りにきな京錠をかけ始めた。
普段は鍵などかけずに活しているが、妙にげさなことをしている。
恵子は箒を持ったまま、さりげなくづいた。
「静さん、朝からそこに鍵なんかかけて、どうしたの。何か盗まれるものでもあるの?」
静はびくっと肩を揺らし、振り返った。
目のには濃い隈があり、顔は病のように青かった。
「ああ、ボイラーが壊れちまってね。修理代がくつくから、ただの物置にすることにしたんだよ」
「昨まで普通にいてたじゃない」
恵子がそう言うと、静は急に声を荒げた。
「らないよ。古くて寿命が来たんだろう。ののボイラーに、なんでそんなに興を持つんだい」
恵子はそれ以聞けなかった。
話題を変えるように言った。
「そういえば、美ちゃんの姿が見えないけど、もう配達にったの?」
その瞬、静の表がたく凍った。
「あの子なら逃げたよ。男を作って、血を分けた息子を放りして夜逃げしたんだ」
「美ちゃんが? まさか、あの子がどれだけ優ちゃんを事にしていたか……」
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恵子が言いかけると、静は返事もせずのへ入っていった。
数、静は稲荷寿司を持って恵子のを訪ねてきた。
普段は1円の損も嫌う静が、作りの稲荷寿司を配るなど、どう考えても自然だった。
「これ、お裾分け。最商売も変だろうからべておくれ」
静はタッパーを台のへ置いた。
「こんなのもらえないわよ」
恵子が断ろうとすると、静は目を細めた。
「いいから受け取りな。お隣さん同士、これからも波てずに仲良くやっていこうじゃないか」
その目には、妙な切実さと警告が同に込められていた。
恵子はあの夜に聞いた音をいした。
鈍い打撃音。
い鳴。
何かを引きずる音。
「ありがとう。いただくわ」
結局、恵子はタッパーを受け取った。
それは、暗黙の沈黙の代償だった。
その6、恵子は豆腐のボイラーを注く見ていた。真の寒さが来ても、そこから湯気ががることはなかった。誰かが入りする姿も、度も見なかった。
けれど彼女はを閉ざし続けた。
隣のの揉め事に首を突っ込んだら、どんな報復を受けるか分からなかった。
その恐怖が、良をねじ伏せていた。
そして現。
規制線の向こうで、い布をかけられた遺骨が担架に乗せられて運びされていく。
恵子はようやく、胸の奥に押し込めていた言葉を吐きした。
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「美ちゃん……ごめんね」
翌、恵子は警察署へった。
胸には、古いスプリングノートを抱えていた。
警察署の廊を歩いていた恵子は、隅の子に座るさな男の子に気づいた。
学くらいの子どもが、膝に顔を埋めていた。
美があれほど切にしていた息子、優だった。
恵子はを止めた。
優の元には、つま先が裂けた古いスニーカーがあった。靴底はすり減り、縫い目もほつれていた。
「お母さんがいなくなって、面倒を見てくれるが誰もいなかったのね」
その景を見た瞬、恵子の胸は締めつけられた。
美がまだ赤ん坊だった優をおんぶしながら、豆腐の配達にり回っていた姿が浮かんだ。
「おばさん、優の学費を貯めるために、私もっと頑張らなきゃいけないんです」
無邪気に笑いながら汗を拭っていた美の顔が、目のになった。
恵子は警察署をると、逃げるように自宅へ戻った。
に鍵をかけ、奥の物置を探した。埃をかぶった段ボール箱のから、古いスプリングノートを取りす。
「どこにあるの……絶対にここにいたはず」
震えるでページをめくり、199111の記録を探す。
1116。
その付のところで指が止まった。
「1116、砂りの夜。隣のから、どんという音と鳴が聞こえた。怖くてにられなかった」
い記録だった。
けれど、あのの恐怖が々しくよみがえった。
「そうよ。私が聞いたの。
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