"湖底の五本柱" 第10話
相馬の瞳孔がいた。
「寺がんだ、俺は度この寺に戻ったんだ。の体をもっと確実な所に隠そうとって……あんなブルーシートのじゃすぐに見つかるから」
相馬は喉の奥から鳴のような声を漏らした。
「でも、いなかったんだよ」
「いなかった?」
「血だまりはあった。段には脳もび散っていた。でも、体だけが消えていた。跡もなしに。跡もなしにだ」
相馬はを抱え込んだ。
「のには、俺たちの跡しかなかった。が歩いてった痕跡なんてどこにもなかった。なのに体だけがない。まるで空に吸い込まれたみたいに」
彼は震えるで、本堂の奥を指した。
「その、聞こえたんだ。誰もいないはずの寺から、鐘の音が。もないのに、鐘が鳴ったんだよ」
藤は背筋が凍るのをじた。
物理にありえない。
蓋骨が陥没するほどの傷を負った72歳の老が、自力で起きがり、跡も残さずに消えることなど。
だが現実に、の遺体は発見されていない。
その、部の1が叫んだ。
「警部、これを見てください」
部が指差したのは、相馬が必に押していた梵鐘の内側だった。
藤はライトを向け、を覗き込んだ。
そこにはいなかった。
だが、梵鐘の内壁、青の肌に、赤黒い文字がかれていた。
血文字だった。
まだ乾ききっていない鮮血によるメッセージ。
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「、底にて待つ」
藤が言葉を失ったその瞬、鳴りのような音が響いた。
震ではない。
もっとく、の底から何かが崩壊する音だった。
音は、寺の裏、古い井戸の方角から聞こえてきた。
「警部、井戸が……!」
龍鳴寺には、古い伝説のある「龍の井戸」と呼ばれる枯れ井戸があった。の伝承では、その井戸は脈を通じて旧坑とつながっていると言われていた。
相馬の顔が恐怖で歪んだ。
「つながっているんだ、全部。はっていたんだ。この寺のに何があるかを」
藤は直した。
茂蔵は、んでいない。
あるいは、度んで蘇ったのか。
いや、もっと恐ろしい現実があるはずだった。
は最初から、この結末をっていたのではないか。
彼が殺されたふりをした能性は。
しかし相馬は、確かにが割れていたと言った。
「相馬を連れていけ。ここは危険だ」
藤が叫んだ、激しいが吹き荒れ、本堂の根瓦がばらばらと落ちてきた。
そのに乗って、またしても音が聞こえた。
それは、藤のポケットのにある証拠品の懐計の音ではなかった。
もっときく、澄んだ音。
誰かが暗ので、別の計を鳴らしているような音だった。
藤はに向かって叫んだ。
「茂蔵。そこにいるのか」
返事はなかった。
ただの奥から、くしわがれた笑い声が聞こえたような気がした。
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それはの音だったのかもしれない。
だが藤には、はっきりと聞こえた。
「儀式は終わった」
次の瞬、龍鳴寺の面がきく陥没した。
ダム建設による盤の緩みか。
あるいは、何者かがで爆破作をったのか。
釣鐘堂があった所が、ごっそりとの空洞へ崩れ落ちていく。
「がれ!」
藤たちは髪で崩落を逃れた。
しかし、巨な梵鐘は砂と共に穴の底へみ込まれていった。
そしてその穴の底から、猛烈な勢いでが吹きした。
脈が決壊したのだ。
鏡ダムの湛計画は半のはずだった。
しかしこの夜、龍鳴寺の崩落をきっかけに、へのの流入が始まってしまったのである。
茂蔵の姿は、ついに発見されなかった。
彼がきて逃げたのか。
体となって脈に流されたのか。
それとも、あの血文字の通り、自ら底へと沈んでいったのか。
事件は、主な容疑者のと黒幕の方という、最悪の形で幕を閉じようとしていた。
だが藤は、諦めていなかった。
彼はっていた。
この事件には、まだ語られていないがある。
1500万円は囮に過ぎない。
が命をかけて守ろうとしたもの。
そして、相馬が言っていた「老の計画」。
藤は崩れゆく寺を背に、無線で本部へ連絡を入れた。
「茂蔵を全国指名配しろ。
は問わん。奴はこのダムそのものを破壊するつもりかもしれん」
しかしこのの藤は、まだ気づいていなかった。
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