みかん小説
本棚

"母の墓に立つ母" 第1話

「あの……どなたですか?」

10歳の、田ハルトは、母の墓ので泣いている見らぬ女性を見つけ、声を震わせながら尋ねた。

5の午だった。の斜面にはいアカシアのが咲き、が吹くたびに甘いりが細いを流れていた。ハルトは両に野のを抱えたまま、墓のしでち止まっていた。

この3、その墓を訪れるのはいつも自分だけだった。

のたちでさえ、このの奥にあるさな墓を、ハルトだけの所のようにっていた。だからこそ、そこに誰かがっている景は、ハルトの胸をくざわつかせた。

女性は背を向けたまま、じっと墓のにっていた。肩がわずかに震えている。コートの裾がに揺れ、く押し殺したすすり泣きが、々のを抜けてハルトのに届いた。

なぜ、ここで泣いているのだろう。

母さんのことをっているなのだろうか。

ハルトのはかなかった。のの束がしずつ傾き、茎の先から落ちたが靴のにさく散った。

そのだった。

女性がゆっくりと、本当にゆっくりと、顔をこちらに向け始めた。

が引き延ばされたようにじられた。肩越しに見えた横顔、筋、涙に濡れた頬。そして、完全に振り向いた女性の顔を見た瞬、ハルトは息をんだ。

そこにいたのは、3にくなったはずの母だった。

広告

目元も、の形も、しがった角も、幼い頃に何度も見げた顔と同じだった。毎晩、のでしずつれていくのが怖かったその顔が、今、墓のにはっきりとっていた。

ハルトの膝が震えた。指先がたくなり、持っていた束がことりと面に落ちた。

「……母さん?」

やっと絞りした声は、の静けさので細く震えた。

女性の顔が瞬で真っ青になった。目を見き、震えるでを覆う。そのまま何かに引かれるように、よろめきながらずさった。

女性の瞳は、ハルトの顔のをせわしなくさまよっていた。額、目、、元。まるで信じられないものを何度も確かめようとしているようだった。

しばらく何も言えずにいた女性は、やがて震えるをハルトへ伸ばした。指先は空でかすかに揺れ、届きそうで届かないところで止まった。

「あなたは……体、誰なの?」

声まで震えていた。

その問いがに響く、ハルトと女性は、互いの顔から目をせないままち尽くしていた。ひとつない5の午だった。アカシアのりだけが、2のを静かに漂っていた。

そのい距は、まるで渡ることのできない川のように果てしなくくじられた。

その、ハルトは本当なら、母の墓に別れを告げに来ただけだった。

児童養護施設の園に、来週にはイギリスへくと言われたからだった。

広告

そして、その話は数にさかのぼる。

5の差しが温かく差し込む朝。児童養護施設の窓からは、庭に咲くアカシアのりがほのかに流れ込んでいた。若葉がにそよぎ、いびらがるいをに落としている。

しかし、その華やかな景とは反対に、部のの空気はく沈んでいた。

ハルトは古びた鞄のにうずくまっていた。数枚のを畳んで入れては、また取りして広げる。それを何度も繰り返していた。

Tシャツ1枚を畳むつきにも、ためらいが滲んでいた。

その鞄は、数にほかの子が使っていたおがりだった。ファスナーの取っは緩み、何度もれては付け直した跡が残っている。ハルトはその古びたファスナーを指先でいじりながら、この鞄と過ごしたを確かめるように見つめていた。

突然、ドアが乱暴にいた。

園の川崎が入ってきた。には数枚の類と1本のボールペンが握られている。

「ハルト、今かには国類が全部そろうよ。イギリスにけば、すべて良くなる」

川崎は優しい調を装っていた。けれど、その声には点の迷いもなかった。

ハルトは鞄を理するを止め、ゆっくり顔をげた。瞳が揺れた。

「あの……きたくありません。母さんのお墓は、誰がお世話するんですか」

かろうじて絞りした声だったが、そこには折れまいとする必のいが込められていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: