"消えた背番号1" 第5話
武志」
武志は目を閉じたままかなかった。
「嘘だろ……」
藤原の声が震えた。
「こんなつもりじゃなかった。俺は……」
周囲を見回したが、誰もいなかった。
くで犬の鳴き声が聞こえただけだった。
藤原はちがった。
そして、武志をそのに残してりした。
へ戻ると、自分の部に鍵をかけた。
両を何度洗っても震えは止まらなかった。
俺は何をしたのだ。
藤原はもできないまま、朝を迎えた。
320午6。
監督は、選抜会への発準備のため学へ来た。
午8には、野球部のバスが甲子園へ向けて発する予定だった。
部へ入ったは、すぐに異変に気づいた。
武志の征用バッグが、のまま置かれていた。
ユニフォームも、グローブも、スパイクも残っている。
机のには、1枚のがあった。
「ごめんなさい」
それだけだった。
は武志のへ話をかけた。
何度呼びしても、誰もなかった。
午7過ぎ、学の用務員が裏を掃除していた。
やがて、きな叫び声が舎まで届いた。
「誰か来てくれ! が倒れている!」
教師たちが駆けつけた。
面に倒れていたのは、宮崎武志だった。
部にはきな傷があり、すでに体はたくなっていた。
救急が到着したが、武志が息を吹き返すことはなかった。
警察が現を封鎖した。
面には複数の跡が残り、しれた所から血のついたが見つかった。
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刑事は監督に尋ねた。
「宮崎君と親しかった徒はいますか」
「藤原健です。同じ野球部の控え投です」
藤原は部にいた。
顔は青く、目は充血していた。
刑事が正面に座った。
「昨夜、宮崎君に会いましたか」
「いいえ」
藤原の声は震えていた。
「会っていません」
「本当ですか」
「はい。にいました」
「何かトラブルはありませんでしたか」
藤原は首を横に振った。
「ありません。友達でした」
刑事はしばらく藤原の顔を見つめた。
しかし、決定な証拠はなかった。
現を見た者はいない。
からは、特定できる指紋が採取されなかった。
武志が残した「ごめんなさい」というメモは、自ら姿を消そうとしていたようにも読めた。
学は騒然となった。
徒たちは泣き、教師たちは対応に追われた。野球部員たちは、武志の空になった席を見つめることしかできなかった。
そのの午、刑事たちは病院を訪れた。
母親に息子のを伝えるためだった。
「武志が……?」
母親は何度も名を呼び、ベッドので泣き崩れた。
「どうして……。あの子は、今、甲子園へくはずだったのに……」
捜査は続けられた。
しかし目撃者もなく、藤原の嘘を崩す証拠も見つからなかった。
1週が過ぎた。
1かが過ぎた。
やがて半が過ぎた。
最終に武志のは、夜でを滑らせ、にを打ちつけた事故として処理された。
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藤原だけが、真実をっていた。
野球部は予定どおり甲子園へ向かった。
背番号1を与えられたのは、藤原だった。
だが、藤原の球には力がなかった。
初戦で打ち込まれ、チームは敗退した。
ネット裏にいたプロのスカウトたちは、誰も藤原に声をかけなかった。
武志が消えれば、自分が1番になれる。
そう信じていた。
しかし藤原がに入れたのは、背番号1のユニフォームだけだった。
マウンドにつ資格まで奪えるわけではなかった。
藤原は卒業も野球を続けた。
学先でに物狂いの練習をね、やがてプロの世界へ入った。
才能では武志に及ばない。
それでも、藤原には執があった。
誰よりもく球へ入り、誰よりも遅くまで投げ込んだ。故障をしても、痛み止めをみながらマウンドにった。
やがて藤原は軍に定着した。
な試を任され、勝利をねた。聞には「努力の投」「屈の腕」とかれた。
だが、藤原は勝ってもばなかった。
試にチームメイトが抱きついてきても、笑顔を作ることができなかった。
マウンドにつたび、背に武志がいるような気がした。
自分より速い球。
自分よりい球。
族のために投げ続けた、18歳の。
藤原が投げているのは、本来自分のではない。
武志が歩くはずだったを、自分が奪って歩いている。
そうえてならなかった。
昭62、武志の母親がくなったというらせを、元チームメイトから聞いた。
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