"水槽裏の金歯" 第7話
翌、健が暴れて警察が駆けつけたに漂っていた異様な臭いは、その証拠隠滅の痕跡だった。
2は警察の目ので、完全犯罪を完成させたつもりでいた。
佐藤は「恵子がタクシーに乗った」と嘘をついた。
義子は「夫から逃げる計画を聞いた」と涙ながらに証言した。
警察は2の証言を信じ、健を疑った。
義子は横領の発覚を免れ、佐藤の借は消えた。
その8、2は何事もなかったかのようにき続けた。
だが、排管の奥に沈んだ歯だけは、全てを見ていた。
義子の自から6か、京方裁判所で判決公判がかれた。
法廷には築の商たちと、恵子の族が集まっていた。
方になった当、学だった男も、学だった娘も成していた。2はれた席に座り、母親の写真を抱えていた。
裁判が判決文を読みげた。
義子は殺、遺体損壊、遺体遺棄、証拠隠滅の罪に問われていた。
「被告は自己の横領為と額の債務が発覚することを恐れ、被害者の命を奪った」
法廷は静まり返っていた。
「さらに共犯者を利用して証拠を隠滅し、虚偽の証言によって捜査を期妨害した。その犯は極めて勝であり、結果はである」
義子は俯いたままかなかった。
「被告、義子を無期懲役に処する」
傍聴席がざわめいた。
広告
義子は力を失ったように子へ沈み込んだ。
続いて佐藤浩司の判決が言い渡された。
殺害そのものには直接加わっていなかったが、遺体の処理と証拠隠滅に積極に関与し、8にわたって虚偽の証言を続けた責任はいと判断された。
佐藤には懲役15が言い渡された。
判決が終わると、恵子の娘が声をげて泣いた。
「お母さん、やっと真実が分かったよ」
男は妹の肩を抱いた。
母親の無はらされた。
しかし、母親が戻ってくることはなかった。
方、の疑いから解放された健の表に、びはなかった。
「妻が、そんなことをしていたなんてりませんでした」
記者ので、健は震える声で話した。
「何も緒に暮らしていたのに、何もらなかった」
妻を失ったしみ。
殺犯と疑われ続けた苦しみ。
そして、妻がくの商を違法な利貸しで追い詰めていたという現実。
どのを受け止めればよいのか、健自にも分からなかった。
恵子の遺体は、最まで見つからなかった。
族は、排管から見つかった歯をさな箱に納め、葬儀をった。
祭壇には、若い頃の恵子の写真が飾られた。
写真のの恵子は笑っていた。
歯の歯が、さくっていた。
葬儀の、渡辺刑事は祭壇のにった。
い菊のを供え、静かにをわせた。
広告
「遅くなってしまいました」
返事はなかった。
「でも、真実はらかになりました」
渡辺はい、をげていた。
もし2002の点で厨を詳しく調べていれば、事件はもっとく解決できたかもしれない。
い漂剤の臭いを自然だと考え、排管の臭いをまで確認していれば、歯は8も暗のに残されることはなかった。
佐藤の証言を疑い、の涙に惑わされなければ、健と子供たちはいを苦しまずに済んだかもしれない。
事件、警察では方事件の初対応が見直された。
成がを持って消えたでも、易にと決めつけないこと。
最に目撃された所を、事件現となる能性を踏まえて調べること。
関係者の社会位や評判だけで、証言の信用性を判断しないこと。
渡辺はこの事件をきっかけに、期未解決事件を担当する捜査班へ異した。
「どれほどが過ぎても、証拠が完全に消えるとは限らない」
それが渡辺の信になった。
築は、そのも変わり続けた。
古い建物は取り壊され、しい設備が入り、防犯カメラも増えた。商たちは積会の管理方法を改め、個の額な貸し借りを禁止した。
事件の台となった居酒の跡だけは、い空きのまま残された。
がると、排溝へ流れ込むの音が聞こえた。
広告
の古い商たちは、その音を聞くたびに、8誰にも気づかれずに沈んでいた歯をいした。
義子は、々から尊敬される「姉御」だった。
鈴恵子は、族をする魚の妻である方、秘密の帳簿でくのを支配していた。
佐藤浩司は、借とを守るために、取り返しのつかない選択をした。
健は罪を犯していなかったが、ギャンブルと暴力によって妻と子供を苦しめていた。
この事件に、完全に潔なはほとんどいなかった。
それでも、誰にもの命を奪う権利はない。
どれほどい秘密を抱え、どれほど額のに追い詰められても、殺が許される理由にはならない。
8、暗い排管の底でに埋もれていたさな歯。
それは声を持たなかった。
だが、科学と諦めなかった捜査によって、誰よりも雄弁にあの夜の真実を語った。
完全犯罪などしない。
が隠したものを、が必ず暴くとは限らない。
それでも、どこかに残されたさな痕跡を見つけようとする者がいる限り、止まった正義の計は再びきす。
築の空に朝が昇る頃、空きに残されたは再びきす。
築排溝が淡いを反射していた。
あの夜と同じ所で、は今もき始める。
魚を運ぶ台の音。
商たちの掛け声。
くで鳴るのクラクション。
その常のには、忘れてはならない8の真実が、静かに刻まれていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51