"消えた御曹司と500万の罠" 第3話
悠は目を閉じた。
午5。
アラームが鳴ると、悠はほとんど眠れないまま起きがった。
シャワーを浴び、スーツへ袖を通し、ネクタイを締める。鏡には、晩で数老けたような顔が映っていた。
目のには疲労のがある。
それでも仕事へけば、誰もそんなことは気にしない。
運転の私活など、乗客にとっては関係のないことだった。
会社へ到着した悠は、会専用の点検を始めた。
体に汚れはないか。
燃料は分か。
タイヤの空気圧。
内の温度。
部座席に置く料。
朝グループの会専用は、常に完璧な状態でなければならない。
悠はを切りすように、つひとつ確認していった。
午6過ぎ。
エレベーターから田健造会が現れた。
60代とはえない真っ直ぐな姿勢と、巨企業を率いてきた特の鋭い差しを持つ物だった。
悠は礼し、部座席のドアをけた。
「おはようございます、会」
「うむ」
健造が乗り込むと、悠は運転席へ移った。
は静かな朝の京をり始めた。
しばらくして信号で止まった、部座席で健造の携帯話が鳴った。
「私だ」
い返事の、健造は黙って相の話を聞いていた。
やがてい声が内へ流れた。
「そうか。悠の消息はまだないか」
悠は無識にバックミラーを見た。
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「20も経つのに……分かった。引き続き探してくれ」
話が切れた。
内は再び静かになった。
悠という名。
20探し続けている誰か。
自分と同じ名なのは単なる偶然だろう。
それでも悠は胸の奥に妙な痛みを覚えた。
20も探してもらえるがいる。
それほどまでに切にわれているがいる。
羨ましかった。
自分が突然この世から消えたとして、20も探してくれるなどいるのだろうか。
「本君」
突然呼ばれ、悠は姿勢を正した。
「はい、会」
「君はいくつだ?」
「25歳です」
健造はしばらく黙った。
「……悠も、きていれば君と同じだ」
悠は何も言えなかった。
軽々しく慰めの言葉をにすることはできなかった。
ただハンドルを握り、静かに目へ向かった。
建物に到着し、健造を見送った、悠は1で内に残った。
5歳で記憶を失い。
名以の過を失い。
施設で育った自分。
本当に族を持つ資格がないのだろうか。
良い夫。
良い父親。
温かな庭。
度もまともに経験したことのないものを求めること自体が、の程らずだったのかもしれない。
「これが俺のなんだよな」
悠はさくつぶやき、ハンドルを握り直した。
それでも胸のどこかでは、別の声が消えなかった。
本当にこれで全部なのか。
どこかに自分をっているがいるのではないか。
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誰かが待っているのではないか。
答えはなかった。
翌、秘から悠へ連絡が入った。
本来の会付き運転が数復帰できないため、しばらく担当を続けてほしいという。
「承しました」
悠はそう答えたものの、内では緊張していた。
の話で聞いた「悠」という名と、会の寂しげな表がかられなかったからだ。
午9。
健造が再びへ乗り込んだ。
このはスペイン側の企業とのな契約に関する予定が入っていた。
が発して10分ほど経った頃だった。
突然、内に着信音が響いた。
健造のスマートフォンがのBluetoothへ自接続されていたらしい。
画面にはスペイン本社からの着信が表示されている。
悠はバックミラーを確認した。
健造は類へ目を落としたままだった。
着信が続き、何かの操作ミスで通話がつながった。
スピーカーから、焦った男性の声が流れす。
スペイン語だった。
相はかなり慌てているようで、息もつかずに何かを訴えていた。
当然、悠には理解できないはずだった。
スペイン語を習った記憶などない。
学でも施設でも勉したことはなかった。
ところが、相の声を聞いた瞬だった。
悠のが自然にいた。
「Sí, entiendo la situación. Por favor, cálmese. El presidente está en camino, pero no habrá cambios en la reunión de hoy.」
自分でも何をしているのか分からなかった。
言葉を考えている覚がない。
相が何に困っているのかを理解し、それをさせる言葉が次々とてくる。
発音も、語順も、話す速度も、まるで昔から使い慣れていたかのようだった。
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