"12年目の虫かご" 第4話
甥を探すため、誰よりもいている叔父。
泣き崩れる義姉を支え、捜索隊を率い、毎朝へ入る男。
たちはむしろ夫へ謝していた。
方、あの刑事だけは納得していなかった。
しい運靴らしい跡。
その跡がではなく作業へ向かっていたこと。
しいコンクリート。
そこに残った腕計のバンドらしき属片。
刑事は司へ報告した。
「作業を詳しく調べるべきだといます。なくとも、コンクリート基礎を確認させてください」
しかし返ってきた答えはたかった。
「それだけでのを掘るのか」
「でも、子供の跡が」
「捜索に来た誰かの子供が残した能性もあるだろう」
「属片もあります」
「作業なら、そんな破片の1つや2つ落ちていても議じゃない」
令状を取るだけの証拠にはならない。
刑事の見は退けられた。
彼はその、警察署へ戻ると、事件資料の部を自分用に複写した。帳と緒に机の番奥へしまった。
忘れないためだった。
半。
事件は「5同の方」として、事実捜査が縮された。
子供たちの名がかれた資料は、未解決事件の類棚へ移された。
しかし族にとって、事件が終わることなどなかった。
翔太の母親は、毎朝530分に起きるようになった。
台所で弁当を5つ作った。
翔太が好きだったおかず。
広告
親友のが好きだった梅干し。
の子供たちについても、それぞれの母親から好物を聞いた。
筒も用した。
そして朝になると、の入まで歩いていった。
「帰ってきた、お腹が空いていたらかわいそうだから」
誰かが止めても、母親はやめなかった。
のも。
のも。
の暑いも。
弁当を5つ並べた。
の庭もしずつ壊れていった。
子供が戻らない苦しみに耐えきれず、夫婦ので責任を押しつけうようになった庭もあった。捜索を続けたい側と、現実を受け入れようとする側で見が分かれ、やがて別居や婚に至ったもあった。
ではいつしか、5の話をにすること自体が避けられるようになった。
誰も忘れたわけではない。
ただ、話せば誰かが泣く。
だから皆、黙るようになった。
雑貨の文だけは違った。
の蔵庫には、いつもラムネを5本入れていた。
「子供たちが帰ってきたらむかもしれないからね」
そう言って、しいものへ入れ替え続けた。
方、翔太の父・悟は1息子を失った衝撃からち直ることができなかった。
事件から約1、科部の職を退いた。
そのは体調を崩し、い抑うつ状態と認能のまで見られるようになった。
夫は、その状況を利用した。
兄が療養活に入ると、義姉のもとへ類を持っていった。
広告
「兄貴が回復するまで、と林は私が責任を持って管理します」
息子を失い、夫まで病に倒れた義姉には、細かな類を確認する余裕などなかった。
震えるで印鑑を押した。
そうして数をかけ、本のや林のくが夫の管理へ移っていった。
夫は借を返した。
そして、あの作業のくに派な建物まで建てた。
毎お盆になると、所の々を招き、5の子供たちを偲ぶ席を設けた。
「翔太がきていたら、今頃派なになっていただろうな」
酒が入ると、夫はそう言って目元を拭った。
々は、その姿を見て胸を痛めた。
誰もらなかった。
集まった々の元。
そのコンクリートのに、5がいることを。
1。
5。
10。
が流れた。
5の名は方の記事からも消え、事件をらない若い民まで増えていった。夫は50代となり、の力者の1として自治会の役職にも就いていた。
林とから収入を得て、活にも余裕があった。
しかし、夫には誰にもられていない習慣があった。
毎お盆の夜。
客が全員帰り、が静まり返ると、夫は自宅の板を持ちげた。
そこから、古い虫かごや腕計を取りした。
乾いた布で汚れを拭う。
そして再び袋へ戻す。
11、毎欠かさず続けていた。
がすべてを隠してくれる。
夫は、そうっていたのかもしれない。
しかし11目の。
最初の亀裂が入った。
雑貨の文が肺炎の併症で入院した。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51