"消えた女将と800万の通帳" 第12話
武夫はい黙っていた。
蛍灯のい音が内に響く。
やがて子の背へ体を預け、井を見げた。
く息を吐いた。
「最初は……」
声がさかった。
「800万のことだけやったんです」
森田は何も言わない。
「売ったがあるの分かってた」
「奥さんは渡さなかった?」
「何回言うてもさんかった」
を探した。
鞄を調べた。
通帳は見つからない。
そこでに浮かんだ。
娘が勧めて加入した保険。
保険2000万円。
受取は自分。
「売ったも取れる。保険もるとった」
森田が聞いた。
「その点で計画したんですか」
武夫はさく頷いた。
腰が悪い。
では運べない。
穴を掘るのも難しい。
だから林を利用した。
に困っていることもっていた。
「914」
森田が言う。
「夕方、奥さんと歩いた。そこまでは本当ですね」
「はい」
「その、奥さんが夜にでていったという供述は?」
武夫は目を閉じた。
「嘘です」
散歩を終え、2はへ戻った。
居で再びの話になった。
「800万どこや」
「さへん」
「夫婦のやろ」
「もうええ加減にして」
義子は疲れていた。
本からもを返せと言われる。
では夫からをせと言われる。
「私のや」
義子が言った。
「私が働いて作ったや。これ以、あんたに使われたない」
武夫ので何かが切れた。
森田はその先を尋ねた。
武夫はなかなかをかなかった。
数分。
い声で言った。
広告
「ろから……首、絞めました」
それ以、細かくは語らなかった。
鑑定結果は、供述と矛盾しなかった。
義子の首周辺の骨にはい圧迫を受けた能性を示す痕跡が残っていた。
森田は続いてカードについて聞いた。
「奥さんから渡されたという話も嘘ですね」
「はい」
「どうやって?」
「財布に入ってた」
「暗証番号は?」
武夫は線を落とした。
「希の」
何度か試した。
当たった。
数から使い始めた。
ATMでをろす。
で使う。
もし警察に聞かれたら、
「妻がていくに渡した」
と言えばいい。
そう考えた。
5の取り調べでもそう言った。
2015。
裁判が始まった。
検察は、武夫が800万円の売却代と2000万円の保険を狙い、事に林を巻き込んだ計画な事件だと主張した。
犯。
妻のを使い続ける。
娘には、
「そのうち帰る」
「ていったは戻らへん」
と話す。
失踪から3かで保険会社へ保険の支払い条件を問いわせる。
5、何事もなかったかのように暮らした。
弁護側は夫婦喧嘩ので偶発に起きたと主張した。
しかし裁判所は、事に林へ保険の分配を約束して協力を求めていたことなどから、計画性があると判断した。
判決の。
希は傍聴席に座っていた。
裁判が主文を読みげる。
川武夫。
懲役18。
共犯の林正。
懲役12。
言葉が法廷に響いた。
広告
希は両で顔を覆った。
母を5探した。
そしてようやく見つかった答えは、
最もくにいた父が母の命を奪っていた、
というものだった。
判決もしばらくちがれなかった。
方。
本の疑いもれた。
5。
「義子を殺したかもしれない男」
という目で見られた。
を失った。
阪をれた。
借だけが残った。
犯が逮捕されたという連絡を受けた、本はい何も言わなかったという。
取り戻せないものが、あまりにもかった。
裁判が終わって数。
希の携帯に美子から連絡があった。
「希ちゃん」
「はい」
「回来てくれへん?」
「どうしました?」
話の向こうで、美子がし迷った。
「お母さんが、私に預けていったもんがある」
希は定へ向かった。
昔と同じカウンター。
昔と同じ子。
5、義子が最にコーヒーをんだ所だった。
美子は奥から冊の通帳を持ってきた。
「これ」
希は受け取った。
見覚えがある。
母が夫に隠していた座の通帳。
「お母さんが売ったに持ってきてな」
美子が言った。
「お父さんには絶対バレたらあかんって」
美子はらなかった。
実際の座残が、すでに武夫によってほとんど使い切られていたことを。
希は通帳をいた。
最に記帳された数字。
800万円。
そのの取引は記帳されていない。
のだけでは、母が最に確認した額のまま残っていた。
希は指先で、その数字をなぞった。
800万円。
うどんがうまくいかなくても辞めず。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51