"嘘を握った右手" 第9話
「古かったので」
「何も使ってないんだろ」
「それでも、うちの財産です」
机。
向かいう鉄子。
酒。
乾き物。
「契約を見せろ」
健は封筒をく。
数分。
顔がくなった。
「何だこれは」
「修正すればいいでしょう」
「俺が求した条件が1つも入ってない」
「座って話しましょう」
えり子が酒を注ぐ。
健は受け取らなかった。
「とはまだ会ってるのか」
えり子のが止まる。
「急に何の話ですか」
「正直に答えろ」
「終わったと言ったでしょう」
健は携帯話を取りした。
画面に写真。
えり子とのメッセージ。
えり子の笑顔が消えた。
「どこで、それを」
「おが嘘ばかりつくから、こっちも準備した」
「消してください」
「なぜ?」
「あなたにも庭を壊した経験があるでしょう。の庭まで壊すんですか」
健がちがる。
「庭を壊してるのは俺じゃない」
声が倉庫へ響いた。
奥で聞いていたの顔が張る。
えり子が言った。
「携帯をください」
「嫌だ」
「いくら?」
健の目が鋭くなる。
「今、俺をで黙らせようとしてるのか」
「収穫分から取り分を増やします」
「畑を育てたのは俺だ」
健はドアへ向いた。
「もう終わりだ。今夜、おの夫に全部送る」
えり子のからコップが落ちた。
へ転がる。
図だった。
物置のドアがいた。
が背から健へびかかった。
片腕を首へ回し、もう片方ので携帯話を奪おうとする。
広告
だが健はすぐに反応した。
腰を落とし、をへ投げる。
2の体が卓へ激突した。
焼酎瓶が倒れ、ガラスが割れる。
べ物がへ散る。
「てめえ……!」
健はを殴った。
「何でおがここにいる!」
はから起きがり、鉄子を持った。
健が再びづく。
子の脚が腕へ当たった。
「捕まえて!」
えり子が叫ぶ。
は健の腰へ組みついた。
2が倒れる。
健はの髪を掴んだ。
力いっぱい引く。
が叫んだ。
皮の部と緒に、黒い髪が抜けた。
健は拳のの髪をさなかった。
はりに任せて健を何度も殴った。
瞬、健の力が抜ける。
「縛って」
えり子がロープを持ってきた。
「だけ縛って、携帯を取ればいいじゃないですか」
「今逃げたら、警察へくわよ」
2で健の腕を背へ回した。
健は識を戻し、激しく暴れた。
鉄子へ座らせる。
首を肘掛けへ固定。
首も子脚へ縛る。
健は血の混じった唾をへ吐いた。
えり子を睨む。
「最初から……このつもりだったのか」
えり子は答えなかった。
健の携帯を拾う。
ロック画面。
「番号を言って」
健が笑う。
「おの夫の誕だ」
入力する。
かない。
「違うじゃない」
「じゃあ、の誕じゃないのか」
の線がえり子へ向いた。
えり子はそれを見逃さなかった。
「パスワードを言いなさい」
「嫌だ」
が健のを掴む。
広告
「健さん。言ってください。そうしたら終わります」
健がを見る。
「まだ、この女がおをしてるとってんのか」
「黙れ」
「俺にも同じこと言ったぞ。夫と別れて緒に暮らすって」
の表が変わる。
健は続ける。
「俺が消えたら、次はおだ」
「黙れ!」
えり子が叫んだ。
「この女は秘密をるを残さない」
が健を殴る。
それでも健は止めなかった。
「わさびのも、本当におがもらえるとってるのか」
がえり子を見た。
「姉さん……」
「信じないで」
「契約も偽物だ」
健がのを顎で示した。
「おに渡すも嘘だ」
の呼吸が荒くなる。
えり子は健の髪を掴んだ。
「資料はどこ?」
健が唾を吐いた。
えり子の頬へ当たる。
その瞬。
彼女の表が変わった。
「を使えなくして」
「もう分ですよ」
「やって」
「話を壊せばいいでしょう」
「にも隠してる」
は健の指を掴んだ。
最初はをかせようとした。
健が拳を握る。
はさらに力を加えた。
鉄子がを擦る。
い傷が残る。
健は最まで資料の所を言わなかった。
「やめましょう」
が言った。
汗で顔が濡れている。
「このままじゃ本当にぬ」
「かして返したら、私たちが終わる」
「倫だけじゃないですか」
えり子がを見る。
「あなたがわさびを盗んだことも、私が渡したも、賭博の借も全部るわ」
「だからってを……」
「もう遅いのよ」
健は顔をげた。
苦しそうに息をしながら言う。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51