"床下の学級日誌" 第10話
しかし。
命は助かっていた。
それなら。
その。
どこへったのか。
帳面にあった。
《の医者》
源蔵の古い賀状。
所録。
親戚。
元員仲。
つずつ調べた。
。
の医師へたどり着いた。
すでに引退していた。
名は。
野忠夫。
話で。
藤野理子という名を聞いても。
最初は分からなかった。
だが。
「19956、相島の吉岡源蔵さんが、を怪した若い女性を連れてきませんでしたか」
い沈黙。
「ああ」
老が言った。
「あの女性か」
健太は。
受話器をく握った。
「きていますか?」
また。
沈黙。
そして。
返ってきた。
「たぶん」
健太の胸が。
きく鳴った。
「今も」
老は言った。
「県内の療養施設にいるはずだ」
理子は、本へ運ばれた、識がなかった。
源蔵は野医師に事をすべて話さなかったという。ただ、「島で怪をした。悪い男が関わっている。子どもたちを守りたい」と繰り返し、警察へ連絡することだけは数待ってほしいと頼んだ。
「今考えれば、警察へらせるべきだった」
野は健太に言った。
「医者としても、私は違った」
ただ。
当の源蔵は。
理子が目を覚ませば。
本から事を聞き。
すぐ警察へ届けるつもりだった。
ところが。
理子は。
命を取り留めたものの。
い部傷を負っていた。
目をけても。
自分の名が言えない。
所も。
族も。
分からない。
言葉を理解する力も。
広告
きく損なわれていた。
「完全な記憶喪失というより」
野は説した。
「記憶障害と失語がなった状態だった」
元を証する物は。
つもなかった。
財布も。
帳も。
鞄も。
浩が。
失踪を装うため持ちっていたからだ。
源蔵は。
理子の本名をっていた。
しかし。
言わなかった。
「なぜ?」
健太が尋ねる。
野は。
古い記憶を辿った。
「本が度だけ、識がはっきりした夜があった」
「先が?」
「ああ」
言葉は。
まともになかった。
それでも。
源蔵を見ると。
震えながら。
「あ……け……」
と繰り返した。
そして。
「帰……だめ」
と。
野にはが分からなかった。
源蔵だけは。
分かったらしい。
「美ちゃんのことだったんだとう」
健太は言った。
理子は。
自分が誰かも分からなくなりかけているで。
美だけを。
配していた。
それから。
理子の状態は再び悪化した。
いリハビリが必になり。
野の勤める病院から。
別の療養施設へ移った。
源蔵は。
何度か見いに来ていた。
だが。
自が倒れてから。
来なくなった。
病院側では。
元女性として政へ照会もした。
だが。
当。
島で失踪した理子の報と。
本で保護された元女性の記録は。
結びつかなかった。
齢。
。
期。
う部分はかった。
それでも。
度「本のによる失踪」と理された記録が。
別域の福祉政まで継続して照されることはなかった。
広告
「10も」
健太は言った。
「誰も気づかなかったんですか」
野は俯いた。
「そういう代だったと言えば言い訳になる」
誰かが。
あと歩。
踏み込んでいれば。
が。
相談内容を話していれば。
源蔵が。
理子の名を伝えていれば。
野が。
もっとく元照会を続けていれば。
警察が。
自発失踪という見方を疑っていれば。
子どもたちが。
勇気をせていれば。
10にはならなかった。
だが。
つのきな悪だけで。
この失踪がまれたわけではなかった。
恐怖。
ためらい。
島の狭さ。
守ろうとする気持ち。
面倒をきくしたくない気持ち。
それぞれが。
しずつなった。
そして。
の女性から。
名を奪った。
施設は。
福岡県内のい丘にあった。
健太は。
正式な続きを済ませ。
元確認へ向かった。
11。
々は赤や黄にづいていた。
廊を歩く。
が。
かった。
「こちらです」
職員が。
つの部ので止まった。
健太は。
扉ので。
息をえた。
先が。
きている。
それだけでいい。
そうっていた。
でも。
怖かった。
自分を覚えていなかったら。
あの子どもたちのことを。
全部忘れていたら。
職員が。
扉をけた。
窓辺。
子。
の女性が。
の方を見ていた。
髪には。
いものが混じっている。
頬も。
し痩せている。
1995の理子より。
当然。
10分。
をねていた。
それでも。
横顔を見た瞬。
健太には分かった。
「先……」
声が。
震えた。
女性が。
ゆっくり振り向いた。
その目に。
健太をっているは。
なかった。
健太は、理子のに膝をついた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51