"タダ宿の代償" 第1話
夕方6、佐々敦子はいつものようにリビングの窓際に座り、湯気のつほうじ茶をんでいた。64歳で仕事を退職してから半、夕を作り始めるのこの30分だけは、誰にも邪魔されずに過ごすのがさな習慣になっている。テレビはつけず、庭のハナミズキが夕に染まっていくのを眺めていると、テーブルのに置いていた携帯話が突然震えた。
画面には、男・輔の名が表示されていた。38歳になる輔は札幌かられたで妻の織と2の子どもを育てており、昔は週に度くらい話をくれたものの、ここ数はに度あるかないかだった。母のも誕もいメッセージで済ませるようになり、話が来るはたいてい銭の相談か、何か頼み事があるだった。
「母さん、来の連休なんだけどさ。俺たち、そっちにくことになったから」
久しぶりに聞く息子のるい声に、敦子は最初、素直に嬉しくなった。を何かかけて回り、くの観にも寄る予定だというので、孫たちに会えるとえば自然と頬も緩んだ。ところが輔は、敦子が「どこに泊まるの」と尋ねるより先に、当然のような調で続けた。
「母さんのに泊まるから。ホテル代もかからないし、広いなんだから問題ないだろ」
敦子は湯呑みを持ったまま、瞬言葉に詰まった。
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「泊めてもらえる?」ではなく、「泊まるから」と言われたことが妙に胸に引っかかったが、息子なのだからと気持ちを抑えた。夫婦と子ども2なら部もりるし、久しぶりに族が集まるとえばの準備は苦にならない、と自分に言い聞かせた。
「4なら丈夫よ。子どもたちもきくなったでしょうね」
そう答えると、輔はし笑ってから「いや、4じゃない」と言った。織の両親と妹夫婦、それに輔の学代の友夫婦まで緒に来るという。数をので数え直した敦子が「全部で何になるの」と聞くと、話の向こうで輔は軽い調子のまま「10かな」と答えた。
「10?」
「母さんたち夫婦しかんでないんだし、部余ってるだろ。布団敷けば何とかなるって」
には客が2つあるが、10がゆったり泊まれるほどの広さはない。しかも敦子と夫の正弘もそこで活しているのだから、寝具だけでなく呂や洗面所、朝夕の事まで考えれば、旅館を軒切り盛りするような負担になる。敦子が戸惑っていると、輔はそれを承と受け取ったらしく、「じゃあ決まりな」と言って話を切ろうとした。
「ちょっと待って。事はどうするの?」
「母さん料理好きだろ? 夜は何か作ってよ。昼は観先でべるからさ」
敦子の胸の奥に、さなのようなものが沈んだ。
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自分は旅に同するのではなく、宿泊所と事を提供する側として数えられているのではないかという疑が浮かんだが、話で息子と言い争いたくはなかった。「分かった、また詳しいことは連絡して」とだけ答えて通話を終えた。
そのの夜、織からLINEが届いた。最初のメッセージは「お母さん、来よろしくお願いします」という丁寧なものだったが、その直から「布団10分お願いします」「バスタオルも数分あると助かります」「朝は子どもがパン派なのでパンもお願いします」と、予約確認のような文章が続いた。敦子がつ返事をするにも、次々としい求が画面に表示されていった。
さらに「蔵庫はできるだけ空けておいてください。途で材を買います」「シャンプーとコンディショナーはめにお願いします」「Wi-Fiのパスワード、先に教えてもらえますか」と続き、最には「駐は3台分空けておいてください」とかれていた。敦子は携帯話をテーブルへ置き、しばらく何もせず座っていた。
自分のなのに、そこへが10泊まりに来る準備を、当然のように命じられている。しかも「お願いできますか」ではなく、「お願いします」「空けておいてください」と決定事項のようにかれていることが、妙にしかった。それでも敦子は、息子夫婦との関係を悪くしたくないといういから、その夜は何も言い返さなかった。
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