"青いチョーク" 第3話
青というが、こんなに目つものだったのか。
私はもう本、今度は縦に線を引いた。さらに本加えると、50センチほどの角になった。何となく窓のように見えたので、私はチョークを横に寝かせ、その内側を塗り始めた。
ガリガリと乾いた音がする。壁の凹凸のせいできれいには塗れず、ところどころが残った。それがのようにも、面ののようにも見えた。
いつのにかになっていた。青いが指につき、コートの袖にもし落ちたが、そんなことはどうでもよかった。きれいにしようとすればするほど均になり、それが妙に面かった。
ふと、自分の姿を像した。63歳の女が、通りのないでコンクリートの壁に青い角を描いている。誰かが見れば何をしているのだとうだろう。
そう考えた瞬、笑いが込みげてきた。
最初は元だけだったが、そのうち声が漏れた。「本当に何やってるのよ」と自分に言いながら笑った。最にこんなふうに、理由もなく笑ったのがいつだったのかいせなかった。
「何してるの?」
突然、ろから声がした。私は肩をねさせ、慌てて振り返った。
黄い子をかぶり、紺のランドセルを背負った男の子がっていた。学2か3くらいだろう。片方の靴紐がほどけているのに、本は気にしていない。
広告
「何でもないのよ」と答えると、男の子は壁の青い角をじっと見た。「空?」と聞かれ、私は「そう見える?」と聞き返した。
「窓じゃないの?」
「窓でもいいけど」
「どっち?」
真剣に聞かれると困った。私は青い角を見直し、「どっちでもいいんじゃない?」と答えた。
男の子はしばらく考えたあと、「じゃあ窓」と勝に決めた。そして私のにあるチョークを見て、「貸して」と言った。
「何を?」
「チョーク」
私は瞬ためらったものの、渡した。男の子は壁のへしゃがみ、青い角のへ何かを描き始めた。
丸いに細い胴体、へ伸びた腕。私が「鳥?」と聞くと、「」と言う。「空をんでるの?」とねて聞くと、男の子は当然のように「落ちてる」と答えた。
「落ちてるの? 丈夫なの、その」
「、だから」
「?」
男の子は青い角を指差した。私には空か窓に見えていたものが、この子にはに見えているらしい。
「じゃあ、空からに落ちてるの?」
「違うよ」
男の子はし面倒くさそうな顔をした。
「のから、空に落ちてるの」
が分からなかった。普通ならから空へがっていると言うのではないかとったが、なぜか説を求める気になれなかった。
「そう。それなら丈夫ね」
「何で?」
「分からないけど」
男の子は笑った。そして2センチほどにくなったチョークを私へ返した。
「もうないよ」
「本当ね」
「また描けば?」
「何で私が?」
広告
「だって描いてたじゃん」
その通りだった。
男の子は名も言わずにっていった。途でほどけた靴紐を踏みそうになり、度きくよろけたので、私はわず「危ないわよ」と声をかけたが、振り返りもしなかった。
私はもう度、壁を見た。
青い角。空なのか、なのか、窓なのか分からない。そのに、のから空へ落ちているがいる。
何のもない絵だった。
それなのにへ帰るまで、何度もいした。
夕は蔵庫に残っていた煮物と豆腐で済ませた。テレビをつけても内容はほとんどに入らず、器を洗った、爪の脇に青いが残っていることに気づいた。
鹸でもう度洗おうとして、私はを止めた。
その青をしばらく残しておきたいとった。
布団に入ってからも、「のから空に落ちる」という言葉を考えた。最までは分からなかったが、その夜、私は久しぶりに夫とはまったく関係のないことを考えながら眠った。
翌の午3を過ぎた頃から、私は妙に落ち着かなかった。洗濯物を取り込み、台所を片づけ、蔵庫のまでもなく確認した。計を見ると343分で、かけるにはまだしい気がした。
私はテレビをつけた。けれど、気予報が終わる頃には消していた。356分になると、結局コートを着てをた。
昨の壁を見るためではない、と自分ではっていた。途には図館へ曲がるもあり、スーパーもある。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 208 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 216 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 57