"青いチョーク" 第6話
昼、私はを散歩へ誘った。直はゲームの途だったので嫌そうだったが、美紀に促されてついてきた。
壁が見えると、直がち止まった。
「何これ」
「壁」
「見れば分かるよ」
「じゃあ聞かないで」
美紀が吹きした。
壁のには5、6の子どもがいて、蒼太もいた。私が鞄からチョークの箱をすと、美紀の顔が変わった。
「お母さん、それ……」
「チョーク」
「見れば分かるけど」
親子は似るらしい。
「これ、お母さんも描いてるの?」
私は青い角を指差した。
「最初に描いたのはあれ」
美紀は目を細めて探した。
「どれ?」
「真んの、がいるところ」
「あれ、お母さんが?」
驚き方がし気に入らなかった。
「角くらい私でも描けるわよ」
「そういうじゃなくて。お母さん、絵なんて描かなかったじゃない」
「最描くの」
美紀は壁へづき、青い角をしばらく眺めた。
「これ何?」
「最初は窓のつもりだった」
「今は?」
「空かもしれないし、かもしれない」
「がんでる?」
「のから空に落ちてるんですって」
美紀が振り返る。
「どういうこと?」
「私にも分からない」
で笑った。
その横では、蒼太と直がすでに仲良くなり、緒にのを描いていた。
夕方、へ戻ったあと、美紀たちは6過ぎに帰ることになった。玄関で靴を履きながら、美紀がさな声で「しした」と言った。
「何が?」
「お母さん」
「私、そんなに危なそうだった?」
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「そういうじゃないよ」
美紀は度言葉を探した。
「は何聞いても、『普通』『別に』『丈夫』しか言わなかったから」
「本当に普通だったのよ」
「うん。でも普通って、何もないってことじゃないでしょ」
娘からそんなことを言われるとはわなかった。
「壁のことも、言ってくれなかったね」
「わざわざ言うようなことじゃないもの」
美紀はし笑った。
「私は、そういう『わざわざ言うほどじゃないこと』を聞きたいんだけど」
私は返事ができなかった。
美紀たちが帰ったあと、は急に静かになった。以なら、この瞬が番嫌だった。が帰った直の部は、最初からでいたより広くじるからだ。
ところがそのは、直がみ残した麦茶や、しずれた座布団、美紀が使ったタオルを見ても、すぐには片づけたいとわなかった。
器棚の夫の湯呑みをに取った。
縁がし欠けている。
夫は何度捨てようとしても、「まだ使える」と言って放さなかった。
私は湯呑みを台所へ持っていき、2ぶりに洗った。
捨てるつもりだった。
けれどゴミ袋には入れなかった。
翌朝、庭に咲いていた柳を本切り、湯呑みに挿した。
瓶に変えたところで、何かが解決するわけではない。
ただ、2ずっと「夫の湯呑み」だったものが、ほんのし別の物になった。
それだけでよかった。
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4の終わりからのが増えた。チョークの絵はにく、もれば赤はい桃になり、青い魚の輪郭は流れ、黄い太陽はほとんど見えなくなる。最初の頃、私はそれを見るたび残にった。
けれど蒼太は平気だった。
「また描けばいいじゃん」
ががると本当にまた描いた。同じクジラを描くもあれば、とはまったく違う潜艦になるもある。誰かの猫が消えた所には、翌になるときなケーキが現れた。
しずつ、私は消えることが嫌ではなくなった。保するための絵ではないのだから、残らなくてもいい。むしろがれば何もなかった所に戻ることが、この壁の良さなのかもしれないとうようになった。
ところが5のある朝、病院へく途でマンションの横を通った私は、そのでを止めた。
壁がになっていた。
で消えたのではない。
からしい塗料が塗られていた。
青い角も、黄い太陽も、クジラも、誰かがいた「今もおつかれさま」も、全部なくなっていた。しるいの塗料が、10メートル以にわたって均に塗られている。
私はしばらくけなかった。
自分たちの壁ではないことはっていた。勝に描いていたのだから、所者が消しても文句は言えない。で消えるのと同じだとえばいいはずだった。
それでも違った。
が絵を消したには、また描けるとった。
しい塗料で覆われた壁は、「ここには描いてはいけない」
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