"片胸の息継ぎ" 第4話
「呂あるよ。部も部取るから」
「温泉はいい」
「何で?」
「別に好きじゃない」
「昔は好きだったじゃん」
術、族旅へけば律子は温泉に入っていた。呂も嫌いではなかったし、麻が子どもの頃にはで湯をして、亮介と結婚するにも母娘で度旅したことがある。
「今は別に」
麻は黙った。
それから、し声を落とした。
「傷のこと?」
律子は蔵庫を閉めた。
「関係ないよ」
「お母さん」
「本当に好きじゃなくなっただけ」
「貸切呂のある宿にする?」
「そこまでしてく必ないでしょう」
言った瞬、麻が傷ついたのが分かった。
しかし、訂正する言葉がなかった。
「分かった」
娘はく答えた。
「また連絡する」
通話が切れた。
律子はしばらく携帯話を持ったままっていた。
以からそうだった。
麻は配すると、律子が隠したい所を正確に見つける。
術、初めてで呂に入ったのことを覚えている。胸を覆っていたガーゼがれ、鏡ので自分の体を見た、律子は鳴もげず、泣きもしなかった。
ただ、目を逸らした。
それからしばらく、浴の鏡をタオルで覆っていた。
麻が泊まりに来た、それを見つけた。
「鏡、どうしたの?」
「垢がひどいから」
「タオルで?」
「あとで掃除する」
娘は何も言わなかった。
次に来た、鏡にはしい曇り止めシートが貼ってあった。
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麻が買ってきたものだった。
律子は礼を言わなかった。
余計なことをされたとった。
今考えると、麻なりに何かしたかったのだろう。
それでも律子には、の好が々かった。受け取れば、自分が傷ついていることまで認めなければならない気がするからだ。
そのの仕事では、女性更の清掃担当だった。
午8を過ぎると利用者は数になった。
70代くらいの組の女性が、泳ぎ終えて着替えていた。
の女性の胸には、きな斜めの術痕があった。
律子は見ないように目を落とした。
ところが女性はまったく気にしていない。
「今、あんた遅かったじゃない」
友が言う。
「脚つったのよ」
「歳なんだから無理するから」
「そっちだって昨腰痛いって言ってたでしょう」
は裸のまま笑っている。
律子はモップをかした。
なぜ平気なのだろう。
なぜ自分は平気ではないのだろう。
同じ術かどうかは分からない。
傷のきさも、治療も、も違う。
比べること自体がおかしい。
分かっていても、その女性の背を目で追ってしまった。
彼女は着をつけ、を着た。
術痕は見えなくなった。
それだけだった。
何も特別なことは起きなかった。
その夜、須賀は15メートルまで泳いだ。
息継ぎはまだ格好だったが、初めて途でたなかった。
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「今の何メートル?」
須賀が息を切らしながら聞いた。
森本が答える。
「15くらいですね」
「まだ10もあるのか」
「最初3メートルでしたよ」
「25っていな」
「距だけならいんですけどね」
須賀は面へ仰向けになった。
両がへ沈み、顔だけがている。
「ぬって、こんなじかな」
森本が呆れた。
「すぐぬ話にするのやめてください」
「静かだぞ、の」
律子はを止めた。
須賀の体は、ほとんどいていない。
しだけ脚を揺らし、に浮かんでいる。
胸がしている。
吸う。
吐く。
吸う。
吐く。
当たりのきだった。
律子は突然、自分の胸へを当てたくなった。
制のからでは何も分からない。
それでも、そので肺はいている。
乳がなくても。
傷があっても。
体は息を続けている。
そのことが、し腹たしかった。
自分が3、壊れた物のように扱ってきた体が、本の気持ちなどお構いなしに働き続けている。
まるで「別に終わってませんけど」と言われているようだった。
帰宅、律子は麻へメッセージを送った。
《箱根、貸切呂あるなら考える》
分もしないうちに返事が来た。
《探す!》
その文字のろに、温泉の絵文字がつ並んでいた。
律子はし笑った。
くとはまだ決めていない。
それでも、断らなかっただけで何かがしいた気がした。
になると、民プールは混雑した。
学が休みに入り、昼は子どもでいっぱいになり、夕方になっても族連れが残る。
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