"十六歳の毒薬花嫁" 第5話
目の朝。
湊が目を覚まし、枕元にいた澄を見てさく言った。
「腹が減りました」
澄はそのでけなくなった。の、べ物を見ただけで顔を背けていた息子から、度も聞いたことのない言葉だった。キヌは持っていた湯呑みを落としかけ、凛は何も言わず台所へった。
そのの粥は、茶碗の底が見えるまでなくなった。箸を置いた湊はしばらく俯き、「変だな」と呟いたため、凛が「何がでございますか」と尋ねると、湊は笑うような、泣くような顔をした。
「飯のがする。ぶりだ」
障子のにいた澄は、元を押さえたまま声をさなかった。息子のでは絶対に泣かないと決め、ものそれを守ってきた女だったが、そのだけは肩が細かく震えていた。
目。
湊は自分で体を起こし、布団のへ座っていた。
澄は昼過ぎ、凛を仏へ呼んだ。
「薬への入りを許します」
凛はくをげた。
しかし、湊が回復し始めたそのから、野のでは別のものもき始めていた。
凛が薬蔵へ自由に入りできるようになったわけではなかったが、奥向きの買い物や台所の支については、しずつ帳面を見る会が増えていった。字そのものは父から基礎しか教わっていなかったため難しい文章は読めなかったが、数と品物の印、商ごとの癖を覚えることに関しては、並み以の記憶力を持っていた。
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ある夜、の祭祀で使った干し椎茸の数を見て、凛はを止めた。は、は、にはと記されているが、キヌに尋ねると「どれほど盛にしてもを越えたことはございません」と首を傾げた。調べてみれば蜂蜜、麦、油、干魚にも同じような膨らみがあり、ごとなら誤差に見える程度の違いが、並べるとらかな増加になっていた。
凛の胸に、つの疑が浮かんだ。奥向きの用品でこれだけ数字がかせるなら、もっときな額がく薬の仕入れ帳はどうなっているのか。父がに何を見つけ、野を訴えようとしたのかをるには、どうしても帳の帳面を確認する必があった。
だが帳と薬蔵の鍵は蔵が握っている。澄でさえ「夫をくして以来、向きは蔵に任せている」と言い、帳面を自分からこうとはしなかった。、実が抱えた借財を蔵に肩代わりしてもらったことがあり、その証文を今も握られていることを、澄はまだ凛に話していなかった。
数、蔵から呼びしがあった。部へ入ると、机のに枚の買付が置かれており、「薬の仕入れを倍にすることになった。内向きを預かる嫁なら、こういうものにも目を通しておけ」と言われた。凛はをに取り、文字を灯へかざした。
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「叔父様、これはいつ届いたものでしょう」
「昨だ。何か問題でもあるか」
凛は指の腹で墨の線をなぞった。先、同じ商から届いた付では「払」の最の線がもっとく、このではい。墨もまだしく、分にへ沈んでいなかった。
「この商がいたものではないといます」
蔵の顔には驚きがなかった。「ほう」とだけ言い、ゆっくり煙管を置いた。凛が癖と墨の違いを説すると、蔵はしたように頷いた。
「なるほど。目だけは利くらしい。では聞こう。おは先の付を、どこで見た」
凛の背に汗が浮いた。「奥向きへ回ってきた控えで拝見しました」と答えると、蔵はすぐに「控えをしまう箱の鍵は誰が持っている」と問い返した。さらに、祭祀の品きと照らしわせたのは澄の許しを得たのかと続けたため、凛はようやく理解した。
この男は、付の真偽を見てもらうために呼んだのではない。
凛がどこまで帳面を見ているのか、自分のから言わせるために呼んだのだ。
「叔父様、失礼いたします」
凛はそれ以何も答えず、くをげて部をた。翌朝にはくも族の老たちが集められ、蔵から「本より本の嫁は帳、薬蔵、仕入れ帳の類に切触れてはならぬ。背けばそののうちに縁とする」としい取り決めが告げられた。
凛は黙って礼した。
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