"35万円の空冷蔵庫" 第5話
呆れでもない。
あまりに愚かで、笑うしかなかった。
午0。
浩司は8万円を取りに来る。
私は斎から茶封筒を取りした。
だがへ入れたのは現ではなかった。
浩司が利の業者から借りたの記録。
母から浩司へ流れた2000万円の送履歴。
そして枚のメモ。
『全部っている。本物の8万円と、この件について俺が黙っていることを望むなら、今午6、母さんと美穂を連れて会へ来い。逃げれば、資料を弁護士と関係者へ渡す』
私は封筒を閉じた。
脅すためではない。
全員が揃う所で、逃げをなくすためだった。
がけた。
元の朝8。
固定話が鳴った。
母だった。
「けましておめでとう。弓さん、空っぽの蔵庫見て泣いてるのかしら」
話の向こうで笑う声がした。
弓はキッチンにち、昆布と鰹節で汁を取っていた。
母は続けた。
「私たちは今からカニ鍋よ。美穂さんって本当に料理の際がいいわね。若いお嫁さんはやっぱり気が利くわ」
私は受話器を取った。
「母さん」
「あら、健もいたの?」
「昼12に浩司がを取りに来るんだな」
「そうよ。活費5万円とお玉3万円。ちゃんと用しておきなさい」
「分かった。俺から直接渡す」
私は呼吸置いた。
「それから、もう弓に直接連絡するな」
母はで笑った。
「偉そうに。まあ、おさえ用しておけばいいわ。
広告
せいぜい貧乏くさいお正を楽しみなさい」
話が切れた。
弓は俯いたまま、エプロンをく握っていた。
「悔しい」
さな声だった。
「私、悔しいよ、健さん」
20、母を悪く言わなかった弓が、初めてにした言葉だった。
私はその背を抱いた。
「その気持ちは、今で終わらせる」
正午まで、あと4。
私は斎へ向かい、達也へ話をかけた。
「予定通りやるんだな?」
話の向こうで達也が確認した。
「ああ」
「浩司は?」
「昼に来る」
「分かった。こっちは準備できてる」
達也には数から話をしていた。
母と浩司の銭問題。
父の遺産。
浩司が私の名を勝に使って借している能性。
そして晦の略奪。
「健。つだけ言っておく」
達也の声がくなった。
「今やるのは復讐じゃない。今、弓さんの活を守るための理だ。その線だけは絶対にすな」
「分かってる」
「鳴って相を殴ったら全部台無しだ。証拠と事実だけでいけ」
「そのつもりだ」
話を切った、私はリビングへ戻った。
弓が2つの丼を卓へ置いた。
「朝ご飯にしよう。夜の見もしたかったから」
具は刻んだネギだけだった。
だが黄の汁から、昆布と鰹節のいいりがっていた。
すする。
体の奥まで温かさが染みた。
「うまい」
私はわず言った。
「本当にうまいよ、弓」
弓の目から涙がこぼれた。
「よかった。
広告
これなら叔父さんたちもしはんでくれるかな」
「ぶよ」
私はもうんだ。
「35万円の料理より、こっちの方がずっとうまい」
午1158分。
インターホンが3回鳴った。
モニターには派なダウンジャケット姿の浩司が映っていた。
私は弓へ言った。
「奥にいてくれ」
「でも……」
「丈夫だ」
玄関をける。
浩司は挨拶もそこそこに笑った。
「けましておめでとう、兄貴。いやあ、静かな正だな。カニの匂いもしないし、義姉さん寝込んでんの?」
私は答えなかった。
浩司は気にせずをした。
「で、。俺このちょっと取引先へくから急いでるんだよ」
元の昼に、取引先への挨拶。
嘘だとすぐ分かった。
私はポケットから茶封筒をした。
浩司はひったくるように受け取った。
みがあるためか、も確認せず満そうに笑う。
「お、結構あるじゃん。来から8万だからよろしくな」
私は黙っていた。
「じゃ、夫婦2で貧乏正楽しんでな」
浩司はしいミニバンへ乗り込み、りった。
私は玄関を閉めた。
そして計を見た。
封筒をけるまで、そうはかからない。
午1。
斎のスマートフォンがけたたましく鳴った。
浩司だった。
私はゆっくり通話ボタンを押した。
「兄貴! お、これ何だよ!」
裏返った声だった。
「が入ってねえじゃねえか! それにこの類……どうして兄貴が持ってんだよ!」
私は子へく座った。
「見たようだな」
「お、お……どこまでってるんだよ!」
「全部だ」
話の向こうで息を呑む音がした。
「午6。母さんと美穂を連れて来い」
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 471 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 614 -
完結第16話
四十九日の追放、母の隠し遺言
「十年世話しただけの妹に、実家の取り分はないわ」 母の四十九日、喪服の兄夫婦は親族の前で澄子を指差し、台所の冷えた板の間へ追いやった。信金を辞め10年間、720万円の私財を投じて母を看取った澄子に、兄は「今週中に出て行け」と冷酷に通告する。 母のキャッシュカードは7年前から兄が独占し、消えた年金は1240万円。 家財すべてが二束三文で業者に売り払われようとする中、母が50年愛用した古い足踏みミシンの奥底から、厳重に隠された「ある物」が滑り落ちた。 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 あの日からちょうど49日後、審判の幕が上がる――。兄弟姉妹|修羅場2.3万字5 439 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 2990 -
完結第10話
洋食屋の絆と、高級寿司屋の逆転
岡田悠斗は、高校生の時に両親を交通事故で亡くし、高卒の自動車整備士として働きながら、三歳下の妹・真央をたった一人で大学の法学部まで育て上げた。真央は猛勉強の末に難関の司法試験を突破し、弁護士として初任給をもらう。悠斗への感謝を込めて予約した高級寿司屋の席で、悠斗の職場の傲慢な上司・西村が偶然居合わせ、「工場で油まみれになって働く底辺の作業員」と悠斗と真央を激しく侮辱する。絶望と怒りが交錯する中、隣の席に座っていた一人の客が立ち上がり、西村を冷徹に一喝する。その男の正体は、かつて両親の営む洋食屋「ひまわり」で無銭の少年時代に助けられた大手IT企業の社長・藤井宗介だった。過去の恩返しと、血を分けた兄妹の絆が奇跡を引き起こす感動のヒューマンドラマ。兄弟姉妹|修羅場1.5万字5 641 -
完結第10話
従妹に貸した部屋が、半年で40回又貸しされていた
国家試験の勉強に使う――そう約束した従妹・さやが、私のマンションを他人に使わせ、密かに金まで受け取っていた。半年間、家賃も取らず信じて鍵を預けた私を待っていたのは、生活感が消えた不自然に綺麗な部屋だった。光熱費の異常な少なさ、玄関脇に残されたキーボックスの跡、そして靴箱の奥から見つかった、知らない5人宛ての郵便物。調べるほど、さやの「1人で勉強していた」という言葉は崩れていく。さらに彼女は、私の知らない人間に鍵を渡し、住所まで使わせていたことを認め始めた。親族だからと目をつぶることは、もうできない。私は写真、通話記録、利用履歴を残し、警察や関係機関へ相談することを決意する。だが、問題は無断利用だけでは終わらなかった。私の住所は、いったい何のために使われていたのか――。調べた先で、さらに不穏な事実が動き始める。兄弟姉妹|修羅場4.1万字5 318 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695 -
完結第10話
売上300万元の牧場で、従兄が渡した分け前は200元
「300万元も売り上げたのに、俺の取り分はたった200元なのか?」――祖父から受け継いだ秘伝の飼育技術で従兄・大鵬の牧場を支え続けた私。しかし「利益は4対6」という約束は踏みにじられ、私はただの雇われ人だと切り捨てられた。 3年間の努力を嘲笑われた私は牧場を去り、最後の500元で病気に侵された50羽の獅頭ガチョウを買う。祖父の処方と自分の腕を信じ、恋人・小満とゼロから再出発すると、死にかけていたヒナたちは驚くほど回復していった。一方、私を追い出した大鵬の牧場では謎の病が広がり、300万元の大口契約まで危機に陥る。そんな中、私のガチョウを口にした一人の老人が、亡き祖父の名を聞いた瞬間に涙を流した――。兄弟姉妹|修羅場3.3万字5 162 -
完結第11話
「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転
結婚前は優しく誠実だった夫・誠。 しかし結婚後、彼の本性は少しずつ姿を現していった。 子どもを望めない妻を「役立たず」と罵り、家では暴言を浴びせながら、自分は若い女性との時間を楽しむ。 かな子は「自分が悪いのだ」と耐え続け、愛した人との生活を守ろうとしていた。 だが、ある夜、夫の裏切りを示す決定的な証拠を見つける。 そして離婚を決意したかな子のもとに、長年知らされていなかった父からの連絡が届く。 そこで明かされたのは、彼女自身も知らなかった巨大な財産と、人生をやり直すための力だった。 すべてを失ったと思っていた妻が、実は何も持たない弱者ではなかったと知った時――。 誠の傲慢な要求と、隠されていた真実が次々と崩れ始める。 愛だと信じた結婚の終わりから、かな子の本当の人生が始まる。夫婦|第二の人生|不倫1.6万字5 397 -
完結第32話
不妊を理由に別れた元妻が、機内で双子を抱いていた
5年前、妻・小百合に「ほぼ不妊」という診断が下された瞬間、俺は後継ぎを求める父の言葉に従い、彼女へ離婚届を突きつけた。あの選択は正しかった――そう信じて生きてきた俺の前に、ファーストクラスで小百合と、自分に瓜二つの幼い双子が現れる。 真相を追ううち、俺は恐ろしい事実に辿り着く。不妊診断そのものが偽りであり、小百合は両親まで脅され、何も言えないまま俺の前から消えていた。そして、その全てを裏で仕組んだのは、俺が誰より尊敬してきた父だった。 さらに、本当に問題を抱えていたのは小百合ではなく俺自身で、双子は離婚直前に宿った俺の子供だと判明する。 妻を捨て、子供たちの5年間まで奪ってしまった俺は、もう父の作った「正しい人生」に従うつもりはない。失った家族と向き合い、父が守り続けてきた巨大な権力と秘密に、自分の手で決着をつけると決めた――。夫婦|熟年離婚4.9万字5 8453