"福嫁の逆転茶屋" 第11話
「お断りしましょう」
使いが驚く。
宗介は福を見る。
「理由を聞いても?」
「今の数で100個作れば、の菓子まで急いで作ることになります」
「を増やせばいい」
宗介が言うと、福は頷いた。
「将来はそれでもよいといます。ただ今すぐでは、同じにはできません」
宗介はしばらく考えた。
そして使いへをげた。
「申し訳ございません。毎100個はお受けできません」
使いは呆れた。
「これほどの話を断るのか」
「はい」
「では50個なら」
福を見る。
「30個まででしたら」
「それだけ?」
「を込めて作れるのが、それだけでございます」
使いは満そうに帰った。
おが配そうに尋ねた。
「本当によかったの?」
宗介は笑った。
「昔の私なら、きっと100個受けた」
「今は?」
「怖い」
皆が宗介を見る。
「度でも『の方がおいしかった』と言われる方が、100個売れないことより怖い」
福が静かに笑った。
父の言葉が宗介ので、ようやく別のを持ち始めていた。
信用を失うな。
それは単に嘘をつくなというではない。
客が信じて来てくれたを、自分の欲のために壊すなということでもある。
それから泡にはつの決まりができた。
菓子は、丁寧に作れる分だけ。
客を、静かに迎えられるだけ。
をきくしすぎない。
宗介はかつて、列のできるに憧れていた。
通りから見えるほど客が並び、
「泡は繁盛している」
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とに言われることを望んでいた。
今は違う。
の客が茶碗を置いた、さく息を吐く。
入ってきたよりしだけ柔らかな顔で簾をていく。
それを見ると、
今も商いができた。
そうえるようになっていた。
あるの。
客がもいないがあった。
宗介は帳から庭を眺めていた。
福が隣へ来る。
「今は静かでございますね」
「昔なら焦っていたな」
宗介が笑う。
「今は?」
「のに無理に客を呼び込んでも仕方あるまい」
そこへの若い男が濡れた姿で入ってきた。
は20歳。
奉公らしい。
「すみません」
「どうぞ」
男は番い茶を頼んだ。
菓子は注文しない。
福は何も尋ねず茶だけをした。
男はい、両で茶碗を包んでいた。
しばらくして、さく言う。
「故郷へ帰りたい」
福は何も答えなかった。
男は続けた。
「でも、帰れないんです」
が貧しく、弟たちへ仕送りするため戸へ来た。
奉公先で失敗が続き、最は何をしても叱られる。
自分は役にたないのではないかとっている。
福は最まで聞いた。
「もう杯、お茶をお入れしましょうか」
男は顔をげた。
「でも銭が」
「同じ茶葉でもう度入れますので、これはお代はいりません」
福は杯目を入れた。
男はし笑った。
それだけだった。
何かを解決したわけではない。
仕事が楽になったわけでもない。
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それでも帰り際、男はをげた。
「も、もうだけやってみます」
宗介はその背を見送った。
福が作っているものは、ただの菓子ではない。
自分たちが売っているものも、茶だけではない。
そうった。
泡とは。
がしだけ、自分へ戻る所なのかもしれない。
。
泡のさな庭に、い桜のびらがっていた。
客が帰り、簾をしまった、宗介と福は縁側へ並んで座った。
奥ではおが翌の菓子を包んでいる。
「曲がっておりますよ」
と奉公へ言われ、
「分かっているわよ」
とし悔しそうに答える声が聞こえてきた。
宗介はわず笑った。
「姉も随分変わったな」
福も笑う。
「まだ包みは私より曲がります」
「本に言うなよ」
「言います」
「厳しいな」
はしばらく庭を眺めた。
夕方の柔らかなが、福の横顔へ差していた。
丸い頬。
柔らかな肩。
しの残った指。
宗介は、初めて会ったのことをいした。
襖がき、福が現れた。
胸ので落胆した。
美しい姉ではない。
客に笑われる。
自分の面目がたない。
そのことばかり考えていた。
今、目のにいる福はあのとほとんど変わらない。
けれど宗介の目には、まるで別ののように映った。
いや。
変わったのは福ではない。
自分の目だった。
「福」
「はい」
「私は、初めて会った、あなたをきちんと見ていなかった」
福はし困ったように笑った。
「じております」
宗介は顔をしかめる。
「それを言われると、今でも辛い」
「本当のことでございますから」
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