"福嫁の逆転茶屋" 第13話
老客はしばらく黙った、笑った。
「なるほど。それは確かにい」
宗介も笑った。
ではのが簾を揺らしていた。
は目に見えるものに惑わされる。
美しい顔。
派な器。
価な菓子。
賑やかな構え。
それらには確かに、を惹きつける力がある。
けれど本当にくへ残るものは、たいてい目に見えないところにある。
誰かをう。
忘れていた母の声。
幼いの庭の匂い。
寂しい夜に黙って差しされた杯の茶。
福が作ったのは、ただの菓子ではなかった。
宗介が守ったのも、ただの茶ではない。
が緒に作ったものは、がとしてしだけ自分へ戻れる、さな居所だった。
そして宗介は涯、忘れなかった。
自分がかつて美しい姉を望み、ふくよかな妹を見て落胆したことを。
忘れなかったからこそ、福へ何度でも謝できた。
「福」
閉、宗介が声をかける。
「はい」
「の菓子は何だ」
福はし考え、微笑んだ。
「まだ決めておりません」
「珍しいな」
「ですから、栗を使いましょうか」
「名は?」
「それも、まだ」
宗介は笑った。
「では私も考えよう」
福がそうな顔をする。
「宗介様が菓子の名を?」
「いつまでも女将任せでは若旦の面目がたぬ」
福は吹きした。
「まだ面目を気になさるのですか」
宗介も笑った。
「しだけな」
の笑い声が、静かなに広がった。
本の奥。
夜のにがなくなっても、泡の台所にはしばらく灯りが残っていた。
訪れる、まだ顔もらない誰かのために。
杯の茶と、さな菓子を用するために。
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