"23回拒まれた元部長" 第1話
曜の朝、郊のゴルフ練習には、乾いた打球音が定の隔で響いていた。まだ気温はがり切っておらず、打席のを抜けていくにはしだけのたさが混じっている。42歳の佐藤雅は、会社からも庭からもれられる週末の2を気に入っていて、そのもスマートフォンで撮した自分のフォームを確認しながら、球ずつ黙々と打っていた。
仕事では営業企画部の課を任され、平は部や取引先から絶えず声をかけられる。だからこそ休くらいは誰にも話しかけられず、自分の失敗を自分で考え、自分の速度で修正したかった。へ抜けたボールを見送りながら、佐藤がもう度画を再しようとした、隣の打席から妙に通る声がんできた。
「今のスイング、全然ダメですね。軸がぶれているから、腕だけで振ってしまっているんですよ」
佐藤が振り向くと、60代半とわれる男がこちらを見ていた。いポロシャツの襟をて、首には名ブランドのロゴがきく入ったタオルを巻き、まだ10だというのに焼けした顔には自信たっぷりの笑みが浮かんでいる。隣の打席札には「加藤」とかれていたが、佐藤にはもちろん見覚えのない物だった。
「そうですか。ありがとうございます。でも今は、自分で画を見ながら確認したいので」
広告
佐藤は相の善を無にしないように、できるだけ柔らかく答えた。これくらい言えば普通は「ああ、そうですか」と戻っていくものだとったし、自分自もそのつもりで再びスマートフォンへ線を戻した。ところが加藤は自分のクラブを壁際に置くと、何の迷いもなく佐藤の打席へを踏み入れてきた。
「画なんかじゃ分からないんですよ。本は自分の癖を客観できませんからね。僕は昔、企業で何百も部を見てきましたから、の欠点を見つけるのは得なんです」
ゴルフと会社の管理職にどんな関係があるのか、佐藤には理解できなかった。しかし加藤は説する必すらじていないらしく、佐藤のに触れてグリップの位置を変え、肩を押しげようとした。佐藤はわず半歩引いたが、加藤はそれを「姿勢を直そうとしている」と解釈したのか、満そうに頷いた。
「ほら、もっと肩の力を抜いて。そうそう、そのまま僕の言う通りに振ってください」
仕方なく球だけ打つと、ボールは鈍い音をててくび、ネットので勢いを失った。佐藤は自分のタイミングが完全に崩れたことをじたが、加藤は結果など見ていないようだった。自分が指導しているという事実そのものに満しているらしく、胸を張って次の説を始めた。
広告
「ほらね。最初はそんなものです。でも僕のアドバイスを聞けば、すぐもっとぶようになりますよ」
佐藤の胸に、さな苛ちがまれた。制の打席では、相が話しているにも料は消費されていくうえ、何より自分のために確保した静かなを勝に奪われている。佐藤はクラブを持ち直し、今度は曖昧な言い方をせず、加藤の目を見てはっきり伝えることにした。
「加藤さん、お気持ちはありがたいんですが、今は本当にで練習したいんです。アドバイスは結構ですので、自分の打席に戻っていただけますか」
これ以ないほど確な拒絶だった。佐藤はし言い過ぎたかとい、相が気まずそうに笑って引きがる姿まで像した。ところが加藤の表には、気まずさどころか理解した様子さえ浮かばなかった。
「自分のペースなんて言っていたら、達しませんよ。初者ほど変な癖がつくんです。あなたは真面目そうだから、し教えれば伸びるとって声をかけてあげているんですよ」
佐藤は瞬、言葉を失った。自分は「結構です」と言ったはずなのに、加藤のではいつのにか「もっとに教えてほしい」というに変換されている。拒絶そのものが届かないという奇妙な覚に、佐藤はりより先に気悪さを覚えた。
「嫌なら最初からそう言ってくださいよ。言ってくれれば、こちらも教え方を夫しますから」
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 199 -
完結第11話
「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転
結婚前は優しく誠実だった夫・誠。 しかし結婚後、彼の本性は少しずつ姿を現していった。 子どもを望めない妻を「役立たず」と罵り、家では暴言を浴びせながら、自分は若い女性との時間を楽しむ。 かな子は「自分が悪いのだ」と耐え続け、愛した人との生活を守ろうとしていた。 だが、ある夜、夫の裏切りを示す決定的な証拠を見つける。 そして離婚を決意したかな子のもとに、長年知らされていなかった父からの連絡が届く。 そこで明かされたのは、彼女自身も知らなかった巨大な財産と、人生をやり直すための力だった。 すべてを失ったと思っていた妻が、実は何も持たない弱者ではなかったと知った時――。 誠の傲慢な要求と、隠されていた真実が次々と崩れ始める。 愛だと信じた結婚の終わりから、かな子の本当の人生が始まる。夫婦|第二の人生|不倫1.6万字5 397 -
完結第20話
長女にだけ渡された鍵
父の四十九日。「お前が一番しっかりしている」と病床の父から金庫の鍵を託された長女の私は、弟と妹の前で鉄の扉を開けた。だが中にあった私の通帳は残高一万円で、二百八十万円あった預金は弟の名義で全額引き出されていた。問い詰める私に弟は「親父に頼まれた」と父の直筆の手紙を突きつけ、妹も父と交わした別の密約を叫び始める。そこへ男が現れ、父が実家を担保に借りた五百万円の借用書を突きつけてきた。裡切られた|兄弟姉妹|相続|金銭問題|修羅場3.0万字5 92 -
完結第25話
祖父が私に遺した最後の拒否権
亡くなった祖父の果園を三千二百万円で売却するため、東京で働く私は十年ぶりに実家へ呼び戻された。生活苦に喘ぐ父と妹の結婚資金のため、名義を持つ父は契約を急いでいたが、司法書士が出したのは「長孫である私の書面同意がなければ売却は無効」という祖父の遺言だった。早く終わらせようとペンを握った私は、ふと買い手企業がここを何にするつもりなのか尋ねた。山を削り大型トラックの夜間中継所にすると聞かされた瞬間、私は手元のペンを静かに机へと置いた。祖父母と孫|相続|親子関係|金銭問題3.7万字5 111 -
完結第19話
完璧な夫に給料を突き返した朝
毎月二十五日、夫は手取り四十五万円の給料を一円も引かずに私の口座へ振り込み、親戚の前で完璧な夫として称賛されている。だがその裏で、私は息子の塾代を払うために結婚五周年の指輪を買取店へ持ち込んでいた。固定費と夫のカード代だけで毎月赤字が続き、私の独身時代の貯金も底をついた。翌朝、いつも通り振り込まれた四十五万円の通知を見つめた私は、その全額をそのまま夫の口座へ送金し、スマートフォンの画面を伏せた。嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場2.9万字5 7822 -
完結第21話
優しい教室で震える息子
息子が突然学校に行けなくなり、担任は「いじめなどなくクラス全員に愛されている」と胸を張った。不審に思った私が息子のランドセルを調べると、底板の裏から三十七枚の給食費受領書が出てくる。我が家は困窮などしていないのに、三ヶ月間、生徒全員が日替わりで息子の昼食代を立て替えていた。私が学校へ確かめに行こうとした瞬間、息子は「言わないで」と叫んで床に泣き崩れ、その紙片を必死に胸へ抱え込んだ。怒り|裡の顔|親子関係|金銭問題3.2万字5 6057 -
完結第15話
五人の元彼と三万一千円
結婚式当日の朝、ホテルのフロントに差出人不明の現金書留が五通届いた。中身はすべて、三万一千四百八十円という奇妙な端数のご祝儀だった。面識のない私の歴代の元彼五人からだと気づき、私は血の気を引かせて金庫への保管を頼み込む。だが、不審に思った夫が私の手提げから抜き取ったのは、三週間前に私がその五人へ同額を送金した明細だった。親族紹介まであと十五分、夫は控え室の鍵を閉め、冷たい目で私を見下ろした。夫婦|裡の顔|金銭問題|修羅場2.2万字5 166 -
完結第18話
退職金と三百万円の借金
三十二年間勤めた会社を定年退職する日、人事に呼び止められた私は、一枚の紙を突き出された。それは私の名義と私印で作成された、三百万円の福祉貸付金の借用証書だった。返済が済むまで退職金は支払えないと告げられるが、私に借金の覚えなど一切ない。震える手で書類の日付を確認すると、そこには十一年前、夫が急逝して告別式を行っていた日の数字が並んでいた。私は退職の合意書へのサインを拒み、人事の机に手をついた。怒り|退職金|金銭問題|修羅場2.6万字5 603 -
完結第19話
レジ打ちの妻は恥ずかしい
結婚式まであと一か月。婚約者から突然、私の名前が印刷された『退職届』を差し出された。「うちの嫁がスーパーでレジ打ちなんて困る」と義母と決めたという。冗談だと笑おうとした私に、彼は真顔で「取引先に見られたら恥ずかしい」と言い放った。この三年間、一生懸命働く私の姿が好きだと言ってくれたのは嘘だったのかと問うと、彼は静かに言った。「恋愛と結婚は、違うんだよ」。私は差し出されたペンを机に押し返した。裡切られた|怒り|金銭問題|修羅場2.9万字5 578 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129