"消えなかった500円" 第7話
連絡先の分からない。
それでも数、女がの男を見つけた。
田辺だった。
話をかけると、老いた男性の声がした。
「佐々正雄さんの奥さん?」
「はい。と申します」
話の向こうで、男が黙った。
「正雄さん……くなったんですか」
「はい」
「そうでしたか」
しばらく沈黙した。
は学ノートのことを話した。
「田辺さんのお名がいてあるんです」
男はすぐに分かったようだった。
「ノート、残してたんですね」
「500円って……何ですか」
田辺が息を吐く音が聞こえた。
「正雄さん、奥さんに話してなかったんですか」
「何も」
「最まで?」
「はい」
話の向こうで、田辺がさく笑った。
「本当に、あいつらしいな」
その言い方に、の胸が締めつけられた。
「教えていただけませんか」
田辺はゆっくり話し始めた。
昭41。
属業が倒産したこと。
最の料を受け取れなかった従業員もいたこと。
皆、突然仕事を失い、それぞれ必に再就職先を探したこと。
「正雄さんも変だったでしょう」
「はい」
「あの頃は、みんな同じでした」
田辺自も仕事が見つからず、しばらく雇いをしていた。
やがて仲たちはしずつ再就職した。
正雄もしいへ入った。
だがだけ、状況が悪化した男がいた。
「昭夫です」
はノートへ目を落とした。
「このなんですね」
「ええ」
昭夫はようやく再就職した、病気で倒れた。
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働けない。
入院費がかかる。
妻は幼い子どもを3抱えている。
「誰かが言ったんです。しずつそうって」
「田辺さんですか?」
「たぶん俺だったといます。でもみんな同じことを考えてた」
500円。
それ以は厳しい。
でも数なら、それなりの額になる。
毎集める。
まとめて送る。
「正雄さんは、度も休みませんでした」
は息を止めた。
「度も?」
「ええ。うちは子どもの入学があるから今は無理だとか、親の病院代で苦しいとか、みんな何度かせないがありました」
田辺の声がし震えた。
「でも正雄は毎500円持ってきた」
の目に、ちゃぶ台の景が浮かんだ。
「500円くらいって言うけどね、こっちは10円、20円を考えて買い物してるのよ」
自分の声。
黙って煙を吸う正雄。
「正雄さん、でも余裕なかったでしょう」
はしばらく答えられなかった。
「ええ」
「だから俺、何回か言ったんです。奥さんに話せって」
は胸を押さえた。
「主は何て?」
「言わないって」
「どうして……」
田辺はし黙った。
「あいつ、こう言ったんですよ。昭夫がにられたくないことを、自分の族だからって勝に話せないって」
の目から、涙が筋落ちた。
「それに、奥さんに言ったら奥さんまでするから、俺の遣いってことにするって」
は声をせなかった。
話を持ったまま、畳のへ座り込んだ。
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数。
は田辺と会った。
昔の仲の、松本も来ていた。
待ちわせたのは、駅の喫茶だった。
町はすっかり変わっていた。
昔の造は減り、ビルが並んでいる。
正雄たちが500円を集めていた喫茶も、とうになくなっていた。
田辺は髪になっていた。
松本も腰がし曲がっている。
「奥さん、初めまして」
「主がお世話になりました」
「いや、世話になったのはこっちですよ」
3で席につく。
は例のノートを持ってきた。
田辺がに取る。
「これだ」
「何ですか?」
「正雄が記録してたんですよ」
松本が懐かしそうに笑う。
「あいつ、こういうの几帳面だったな」
ページをめくる。
昭42。
500円。
500円。
500円。
何も続く数字。
「途から送る額が増えてるでしょう」
田辺が言った。
確かに2500円、3000円と増えている期がある。
「仲が増えたんです。話を聞いたやつが、自分もすって」
「昭夫さんは、誰から届いてるからなかったんですか?」
「最初はね」
「最初は?」
松本が頷いた。
「で々気づいてたといます」
郵便為替。
名義は夫した。
匿名にい形で送った。
だが何も続けば、昭夫も議にう。
「回、俺のところに来たんですよ」
田辺が言う。
「これ、おらじゃないのかって」
「何て答えたんですか」
「らないって」
「嘘を?」
「そう」
田辺は苦笑した。
「昭夫、泣いてました」
は何も言えなかった。
「本当なら返したい。
でも今返したら、子どもにわせるものがなくなるって」
の目のに、らない族の卓が浮かんだ。
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