"ATM扱いされた父の正体" 第1話
1224の夕方、朝からり続いていたは、京郊の宅をすっかりく塗り替えていた。私は夫の博と並んで歩きながら、胸のに抱えたきな袋を何度も持ち直した。には3歳になる孫への製のおもちゃと、仕事のを縫ってしずつ編んだ紺のマフラーが入っていた。
「今はんでくれるかしらね。は箱のほうにだったもの」
私がそう言うと、博はい息を吐きながら笑った。67歳になった今も背筋の伸びたで、5に会社員活を終えてからは、料理や掃除まで何でも自然に引き受けてくれている。現役代は精密器メーカーの役員まで務めただが、では昔から驚くほど穏やかだった。
息子の裕介にはの夜、「の夕方、しだけプレゼントを届けにくね」とメッセージを送っていた。既読にはなっていたものの返事がなかったため、私は仕事が忙しいのだろうとっていた。玄関先で孫に渡して帰るだけなら迷惑にはならないだろうと考え、私たちはのを30分かけて息子夫婦のまで来たのである。
インターホンを押してから、しばらく返事がなかった。内から子供の笑い声とテレビの音が微かに漏れており、留守ではないことだけは分かった。もう度押そうとを伸ばしたところで、ようやくスピーカーから裕介の声が聞こえた。
広告
「……母さん?」
「ええ。プレゼントだけ渡したらすぐ帰るから、ちょっとけてもらえる?」
数秒の沈黙があった。やがて返ってきた言葉は、私が像していたものとはまるで違っていた。
「プレゼントだけ玄関に置いて、そのまま帰って」
最初は聞き違えたのだとった。博も隣で僅かに眉を寄せたが、何も言わずインターホンを見つめている。私は袋を抱え直し、なるべくるい声を作った。
「裕介、クリスマスでしょう。せっかくだから、ほんの分でも孫の顔を見たいのよ。昨もくって連絡したじゃない」
「今は都が悪いんだよ。それに、もし泊まるつもりなら無理だから。空いてるの、物置くらいしかないし」
胸の奥がたくなった。もちろん泊まるつもりなど最初からなかったが、実の両親に向かって「物置しかない」と言える息子の覚が理解できなかった。で濡れた袋より、その言葉のほうが遥かにたくじられた。
その、奥から嫁の直美の声が割り込んだ。
「お義母さん、今は本当に無理なんです。嫌なら、そのままお帰りください」
博のが、コートの脇でゆっくり握られるのが見えた。く連れ添ってきた私は、それだけで夫がかなりっていることが分かった。会社員代でさえ自宅にを持ち込まなかったが、息子夫婦の玄関で黙り込んでいた。
広告
私はもう度頼んだ。
「玄関だけでいいの。プレゼントを直接渡したら帰るから」
数秒、内側で鍵のれる音がした。だがいた扉にはチェーンが掛かったままで、10センチほどの隙から裕介の顔だけが見えた。の効いた内から流れした温かい空気が、でえ切った私の頬に触れた。
「母さん、何度言わせるんだよ。今は無理だって」
「クリスマスなのよ。孫だって楽しみにしているかもしれないでしょう」
「子供が邪ひくからく帰ってくれよ。それに、こんなに寄りが玄関でうろうろしてたら、所から変にわれるだろ」
寄り。その文字が胸に刺さった。私は62歳で、介護福祉士として今も週5働き、夜勤にも入っている。毎を支え、入浴介助をし、認症の利用者の活記録をき続けている私を、息子はもう「寄り」としか見ていないらしかった。
「裕介、それは言いすぎじゃないか」
それまで黙っていた博が初めてをいた。きな声ではなかったが、く会社員をしていた頃のく通る声だった。裕介の目が瞬だけ父親へ向いたものの、すぐに面倒そうな表へ戻った。
「父さんも同じだよ。正直、とも俺たちの活に入り込みすぎなんだ」
その言葉を聞いた瞬、玄関の奥に赤いワンピース姿の直美が現れた。
テーブルのにはワイングラスが並び、内には料理の匂いが漂っている。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
義母ATM、全財産を失う
妻を臨月の過労で倒れさせながら、平然と「嫁の勤め」と言い放つ義母。夫は怒りを押し殺し、法事の席で母の隠し財産とリフォーム費用の着服を暴く準備を進めていた。しかし、母が仕掛けた会社への嫌がらせの裏には、亡き義父が隠し通した衝撃の過去が眠っていた。真実が明かされた時、毒親の描いた完璧な老後計画は完全に崩れ去る。相続|真実|絶縁|金銭問題2.2万字5 113 -
完結第16話
十字の紙片と売られた生家
「母さん、老人ホームに入れ。この家も売る」息子夫婦はカナダ移住を前に、相場の半値以下の査定書と山奥の隔離施設のパンフレットを突きつけてきた。共働きで多忙な彼らに代わり、十年間孫娘を育て上げ、遺産から数百万円を用立ててきた私への仕打ちがこれだった。絶望に沈む私の手に、高校生の孫娘が震えながら押し込んだのは、固く折られた「十文字のチラシの紙片」。「明日の朝までに、実印と通帳は絶対に渡さないで」。深夜二時、一人で開いたその紙には、全てを覆す戦慄の計画が記されていた。私は仏壇の隠し金庫に手を伸ばし――。祖父母と孫|介護2.4万字5 428 -
完結第14話
偽りの血液型
花屋で働くさやかは、名門病院の跡取り・谷本勇吾と結婚した。しかし命懸けの出産直後、病室に乗り込んできた元女優の義母・早苗から「この尻軽女!」と胸倉を掴まれる。新生児室の娘の髪は、純日本人の夫婦からはあり得ない見事な「金髪」だった。 さらに夫の元恋人である看護師から「子の血液型はA型。B型の夫とO型の妻から生まれる確率は0%」と宣告され、さやかは「托卵妻」の濡れ衣を着せられて無一文で追い出されてしまう。 信じてくれない夫と冷酷な義父母に絶望し、一人娘の凛を育てるさやか。そんな彼女を密かに支え続けたのは、義母から疎まれていた義弟の慎司だった。 12年後、美しく成長した娘の前に再び現れた元義家族。その裏に隠されていた、改ざんされた検査結果と、名家を揺るがす戦慄の「DNA鑑定書」とは——。祖父母と孫|修羅場2.1万字5 328 -
完結第11話
夫の毒膳と孫の告発〜元科捜研妻の科学鑑定〜
元科学捜査研究所の分析官だった岩田礼子(五十八歳)は、交通事故で息子夫婦を失い、遺された五歳の孫・陽太を夫の国彦と共に引き取って育てていた。 しかし息子の死後、礼子は原因不明の酷い目眩や全身の脱力感に苛まれるようになる。献身的に看病し、料理教室へ通って手料理やサプリメントを振る舞う「理想の夫」国彦。だが、体調は悪化の一途を辿り、ついに出張前日に夫が作り置いた筑前煮を口にした直後、礼子は急性中毒で意識不明に陥ってしまう。 九死に一生を得て帰宅した夕暮れ、テレビのサスペンスドラマで睡眠薬をすり潰す犯人を見た陽太が「おじいちゃんのと同じだ」と無邪気に叫んだ。古巣の科捜研に持ち込んだ筑前煮とサプリメントから検出されたのは、致死量寸前の睡眠薬――優しい夫の仮面の裏に隠された、身の毛もよだつ殺意と陰謀とは。祖父母と孫|夫婦1.6万字5 265 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第25話
祖父が私に遺した最後の拒否権
亡くなった祖父の果園を三千二百万円で売却するため、東京で働く私は十年ぶりに実家へ呼び戻された。生活苦に喘ぐ父と妹の結婚資金のため、名義を持つ父は契約を急いでいたが、司法書士が出したのは「長孫である私の書面同意がなければ売却は無効」という祖父の遺言だった。早く終わらせようとペンを握った私は、ふと買い手企業がここを何にするつもりなのか尋ねた。山を削り大型トラックの夜間中継所にすると聞かされた瞬間、私は手元のペンを静かに机へと置いた。祖父母と孫|相続|親子関係|金銭問題3.7万字5 111