"4200万円の隠し家" 第1話
曜の午、リビングにはテレビのお笑い番組の声と、卓を叩くさな音だけが流れていた。私はダイニングテーブルに老資のメモを広げ、来以に必になる自宅の修繕費や保険料を計算していた。55歳になった夫の慎也も隣のソファでくつろいでおり、久しぶりに何の予定もない穏やかな休になるはずだった。
午3をし回った頃、私のスマートフォンが鳴った。画面に表示されたのは義母・文の名で、珍しいの話だといながらると、挨拶もそこそこに苛った声がんできた。
「佳代さん、のローン、なんでまだ払ってないの?」
私は卓を持ったままきを止めた。言葉のを理解するより先に、線が自然と慎也へ向かった。彼は確かに話の内容を聞いたはずなのに、テレビの画面から目をさず、に持ったリモコンだけを自然なほどく握りしめていた。
「お義母さん、何のことですか?」
「何って、今ののローンよ。あなたの座からじゃなくて慎也の座から落ちることになっているでしょう。それが落ちなかったから、から確認してくれって言われたのよ」
私たちが27暮らしてきたにも、わずかだが宅ローンは残っている。ただし引き落としは初で、今分もすでに問題なく落ちていることを私は計簿で確認していた。
広告
しかも義母がその支払い状況をっている理由など、どこにもなかった。
私はできるだけ平坦な声で聞いた。
「お義母さん。どのですか?」
話の向こうから音が消えた。わずか数秒だったはずなのに、その沈黙は異様にくじられた。文もそこで初めて、私が何もらされていないことに気づいたのだろう。
「……慎也から、何も聞いてないの?」
声が急にさくなった。
私はそれ以尋ねなかった。「分かりました」とだけ答えて通話を切り、スマートフォンをテーブルのへ伏せた。テレビからは芸たちの笑い声が流れ続けていたが、それまで普通だったはずの音が、急に違いなものに聞こえた。
「慎也、説して」
夫はすぐには振り向かなかった。やがて観したようにテレビの音量をげ、ゆっくりこちらを見ると、「母さんが余計なことを言っただけだ」と呟いた。その顔には、られることを恐れて言い訳を探している子どものような怯えが浮かんでいた。
「余計かどうかは私が決めるわ。のローンって何?」
「佳代、落ち着いて聞いてくれ」
「私は落ち着いてる。だから説して」
慎也はしばらく黙り込み、やがて信じられない言葉をにした。
「母さんと織がんでる、賃貸じゃないんだ」
半、義母と義妹の織は古くなった実からしいまいへ移っていた。
広告
慎也からは、膝を悪くした母親が暮らしやすい所を探したところ、頃な賃貸宅が見つかったと聞かされていた。婚しての子どもと実へ戻っていた織も緒にむため、し広めの物件にしたという話だった。
「買ったってこと?」
慎也はさく頷いた。
私は度目を閉じ、息をえた。のまま問い詰めれば、このは昔からそのしのぎの説をねる。27緒に暮らしてきたからこそ、追い詰められた夫がどう振るうかは分かっていた。
「契約を見せて」
「会社に置いてあるんだ」
「の契約なら今確認できるでしょう。ネットの細でもいいから見せて」
慎也は「今は休だぞ」と抵抗したが、私は引かなかった。結局、本確認の続きをしての契約内容へアクセスし、30分ほどかかって関連資料を確認できる画面までたどり着いた。
表示された数字を見た瞬、私は息を呑んだ。
購入価格、4200万円。
宅ローン借入額、3600万円。
、600万円。
慎也は55歳だった。定まで残された数を考えれば、3600万円という借入額がどれほどいのか、税理士事務所で働いてきた私には説されなくても分かった。返済期は25で、計画どおりに支払い続けても完済には80歳になる。
しかし、私が本当に言葉を失ったのは額を見たではなかった。
物件の所者欄には、こうかれていた。
川慎也 持分2分の1。
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 448 -
完結第15話
二十人分の祝い膳を押しつけられたので、家を出ました
義母から「家族のお祝いだから」と押し付けられたのは、二十人分の料理作りと高額な費用負担。 夫も義妹も、私を一人の家族ではなく、都合よく使える存在として扱っていた。 五年間、我慢し続けた嫁・美咲は、ある決断をする。 それは、義妹の息子の一歳祝いの前日に、すべてを捨てて家を出ることだった。 しかし、静かに準備を進める中で、美咲は夫と義母が隠していた驚くべき事実を知る。 そこには、単なる身勝手な家族関係では終わらない、彼女を縛り続けるための計画が隠されていた。 そして迎えた祝いの日。 親戚二十人が待つ食卓に残されたのは、豪華な料理ではなく、誰も予想しなかった「空っぽの祝い膳」だった。 奪われ続けた人生を取り戻すため、美咲が選んだ静かな反撃とは――。嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 284 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 200 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 208 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695 -
完結第15話
元義母の誤爆着信と暴かれた花婿の嘘
モラハラと不倫を重ねた夫・裕二と離婚し、独身としての平穏な生活を取り戻してちょうど一年が経ったある休日の朝。主人公・マナのスマートフォンに、元義母・文から突如「結婚式になぜ来ないの! 早く来ないと離婚させるわよ!」と怒鳴りつける狂気の電話が入る。 「私はもう独身ですが」と告げるも、来なければ自宅や職場に押しかけると脅され、指定された高級シティホテルの式場へ向かうマナ。黒留袖姿で激怒する文は、新郎となった息子の晴れ舞台を元嫁が邪魔しに来たとロビーで激しく罵倒し、白タキシード姿の元夫も腕力で追い出そうと詰め寄る。 だが、文のスマートフォンの発信履歴を確認させた瞬間、事態は暗転。人身事故で遅延していた本当の新婦「まみ」が泥だらけのパンプスで駆けつけた時、元夫が隠し続けていた致命的な大嘘が白日の下に晒される――。嫁姑|修羅場2.5万字5 358 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127 -
完結第20話
長女にだけ渡された鍵
父の四十九日。「お前が一番しっかりしている」と病床の父から金庫の鍵を託された長女の私は、弟と妹の前で鉄の扉を開けた。だが中にあった私の通帳は残高一万円で、二百八十万円あった預金は弟の名義で全額引き出されていた。問い詰める私に弟は「親父に頼まれた」と父の直筆の手紙を突きつけ、妹も父と交わした別の密約を叫び始める。そこへ男が現れ、父が実家を担保に借りた五百万円の借用書を突きつけてきた。裡切られた|兄弟姉妹|相続|金銭問題|修羅場3.0万字5 92