"捨てた料理の代償" 第5話
と肩をすくめた。さらに私を見つけると、ほんの瞬だけ嫌そうな顔をしたものの、「お盆までいるんだ」とありげに笑った。自分の母親と同居している私の方が、このへに来ているだとでもっているのだろう。
私は何も言い返さず、いつも通りお茶をした。徹さんは奥のにいて、杏奈夫婦から見えないよう襖を閉めている。きなスーツケースは敬吾が裏の収納へ移していたため、杏奈は兄が帰国していることに気づかなかった。
昼を過ぎると、翔太は速台所の棚をけ始めた。
「酒ないの? ビールしか持ってきてないんだけど」
「みたいなら自分で買ってきてください」
私が答えると、翔太は骨に嫌そうな顔をした。「義姉さん、コンビニくならついでに買ってきてよ」と言い直したので、私は「く予定ありません」と返した。以なら曖昧に笑って済ませていたけれど、銭の無まで始まってからは、必なことははっきり言うようにしていた。
すると杏奈がソファからを挟んだ。
「ほんと気が利かないよね。からってたけど」
美智子さんがすぐ「杏奈」とたしなめたが、本はどこ吹くだった。「だって本当じゃん。お嫁さんなんだから、それくらいやってもいいでしょ」と笑う。私は反論しようとしたものの、の方からさく物音がしたため、そこで言葉を止めた。
広告
徹さんが全部聞いている。
その事実をいしたからだった。
午になると、私は徹さんとで夕の準備を始めた。といっても実際に包丁を握っているのはほとんど徹さんで、私は材料を洗ったり皿を用したりする程度だった。彼のきは驚くほど無駄がなく、庭用の台所なのに、目のだけ級レストランの厨へ変わったように見えた。
汁を含ませた根と野菜の炊きわせ。鶏肉をばしく焼き、醤油と柑橘をわせたソースを添えた皿。刺用の鯛は昆布締めにし、義母の好きな茶碗蒸しまで用された。豪華ではあるけれど、どれも美智子さんが昔から好きだったを元にした料理だった。
「母さん、こういうの好きだったよな」
徹さんがさく笑った。美智子さんは台所の入からその姿を見ながら、「あなた、昔は卵焼きも焦がしてたのにね」と懐かしそうに言った。親子のそんな会話を聞いていると、今の目が杏奈を叱ることだけではなく、久しぶりに母親へ料理を作るためでもあることが分かった。
夕方6を過ぎた頃、敬吾が仕事から戻ってきた。お盆にもかかわらず設備のトラブルが入り、朝から現へていたのだという。玄関からリビングへ入ってくるなり料理の匂いに気づき、「今すごいな」
広告
と嬉しそうな声をげた。
「兄貴の料理だからな。俺も昼から楽しみにしてた」
私が声で言うと、敬吾はの方を見て笑った。その、杏奈が来ていると聞いた瞬だけ表を曇らせたが、「まあ、今は俺たちが何か言う必ないだろ」とありげに呟いた。どうやら兄弟のでも、すでに話はついているらしい。
午7。
卓の準備がった。
私は階にいる杏奈夫婦へ声をかけた。
「夕できましたよ」
にもは素直にりてきた。昼から何もしていなかったせいか腹が減っていたらしく、翔太など階段をりながら「今、結構いい匂いしてたよな」と杏奈へ話していた。それでもリビングへ入り、私が卓の横にっているのを見た途端、杏奈の表が変わった。
テーブルには分の料理が並んでいる。
杏奈は皿ずつ眺めた。
そして。
げさにため息をついた。
「うわ、これ奈々子さんが作ったの?」
私は答えなかった。
その沈黙を。
杏奈は肯定だと受け取った。
「悪いけどさあ」
杏奈は子にも座らず、腕を組んだまま卓を見ろした。翔太もその隣にち、何か面いことが始まりそうだという顔をしている。美智子さんは静かにを見ていたが、敬吾は料理に箸をつけることもせず、妹が次に何を言うのか待っていた。
「が作った事なんて、汚くてべられないんだけど」
杏奈ははっきり言った。
瞬だけ、部が静かになった。
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 467 -
完結第15話
二十人分の祝い膳を押しつけられたので、家を出ました
義母から「家族のお祝いだから」と押し付けられたのは、二十人分の料理作りと高額な費用負担。 夫も義妹も、私を一人の家族ではなく、都合よく使える存在として扱っていた。 五年間、我慢し続けた嫁・美咲は、ある決断をする。 それは、義妹の息子の一歳祝いの前日に、すべてを捨てて家を出ることだった。 しかし、静かに準備を進める中で、美咲は夫と義母が隠していた驚くべき事実を知る。 そこには、単なる身勝手な家族関係では終わらない、彼女を縛り続けるための計画が隠されていた。 そして迎えた祝いの日。 親戚二十人が待つ食卓に残されたのは、豪華な料理ではなく、誰も予想しなかった「空っぽの祝い膳」だった。 奪われ続けた人生を取り戻すため、美咲が選んだ静かな反撃とは――。嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 284 -
完結第16話
四十九日の追放、母の隠し遺言
「十年世話しただけの妹に、実家の取り分はないわ」 母の四十九日、喪服の兄夫婦は親族の前で澄子を指差し、台所の冷えた板の間へ追いやった。信金を辞め10年間、720万円の私財を投じて母を看取った澄子に、兄は「今週中に出て行け」と冷酷に通告する。 母のキャッシュカードは7年前から兄が独占し、消えた年金は1240万円。 家財すべてが二束三文で業者に売り払われようとする中、母が50年愛用した古い足踏みミシンの奥底から、厳重に隠された「ある物」が滑り落ちた。 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 あの日からちょうど49日後、審判の幕が上がる――。兄弟姉妹|修羅場2.3万字5 439 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3040 -
完結第10話
洋食屋の絆と、高級寿司屋の逆転
岡田悠斗は、高校生の時に両親を交通事故で亡くし、高卒の自動車整備士として働きながら、三歳下の妹・真央をたった一人で大学の法学部まで育て上げた。真央は猛勉強の末に難関の司法試験を突破し、弁護士として初任給をもらう。悠斗への感謝を込めて予約した高級寿司屋の席で、悠斗の職場の傲慢な上司・西村が偶然居合わせ、「工場で油まみれになって働く底辺の作業員」と悠斗と真央を激しく侮辱する。絶望と怒りが交錯する中、隣の席に座っていた一人の客が立ち上がり、西村を冷徹に一喝する。その男の正体は、かつて両親の営む洋食屋「ひまわり」で無銭の少年時代に助けられた大手IT企業の社長・藤井宗介だった。過去の恩返しと、血を分けた兄妹の絆が奇跡を引き起こす感動のヒューマンドラマ。兄弟姉妹|修羅場1.5万字5 641 -
完結第10話
従妹に貸した部屋が、半年で40回又貸しされていた
国家試験の勉強に使う――そう約束した従妹・さやが、私のマンションを他人に使わせ、密かに金まで受け取っていた。半年間、家賃も取らず信じて鍵を預けた私を待っていたのは、生活感が消えた不自然に綺麗な部屋だった。光熱費の異常な少なさ、玄関脇に残されたキーボックスの跡、そして靴箱の奥から見つかった、知らない5人宛ての郵便物。調べるほど、さやの「1人で勉強していた」という言葉は崩れていく。さらに彼女は、私の知らない人間に鍵を渡し、住所まで使わせていたことを認め始めた。親族だからと目をつぶることは、もうできない。私は写真、通話記録、利用履歴を残し、警察や関係機関へ相談することを決意する。だが、問題は無断利用だけでは終わらなかった。私の住所は、いったい何のために使われていたのか――。調べた先で、さらに不穏な事実が動き始める。兄弟姉妹|修羅場4.1万字5 318 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695 -
完結第15話
元義母の誤爆着信と暴かれた花婿の嘘
モラハラと不倫を重ねた夫・裕二と離婚し、独身としての平穏な生活を取り戻してちょうど一年が経ったある休日の朝。主人公・マナのスマートフォンに、元義母・文から突如「結婚式になぜ来ないの! 早く来ないと離婚させるわよ!」と怒鳴りつける狂気の電話が入る。 「私はもう独身ですが」と告げるも、来なければ自宅や職場に押しかけると脅され、指定された高級シティホテルの式場へ向かうマナ。黒留袖姿で激怒する文は、新郎となった息子の晴れ舞台を元嫁が邪魔しに来たとロビーで激しく罵倒し、白タキシード姿の元夫も腕力で追い出そうと詰め寄る。 だが、文のスマートフォンの発信履歴を確認させた瞬間、事態は暗転。人身事故で遅延していた本当の新婦「まみ」が泥だらけのパンプスで駆けつけた時、元夫が隠し続けていた致命的な大嘘が白日の下に晒される――。嫁姑|修羅場2.5万字5 358 -
完結第10話
売上300万元の牧場で、従兄が渡した分け前は200元
「300万元も売り上げたのに、俺の取り分はたった200元なのか?」――祖父から受け継いだ秘伝の飼育技術で従兄・大鵬の牧場を支え続けた私。しかし「利益は4対6」という約束は踏みにじられ、私はただの雇われ人だと切り捨てられた。 3年間の努力を嘲笑われた私は牧場を去り、最後の500元で病気に侵された50羽の獅頭ガチョウを買う。祖父の処方と自分の腕を信じ、恋人・小満とゼロから再出発すると、死にかけていたヒナたちは驚くほど回復していった。一方、私を追い出した大鵬の牧場では謎の病が広がり、300万元の大口契約まで危機に陥る。そんな中、私のガチョウを口にした一人の老人が、亡き祖父の名を聞いた瞬間に涙を流した――。兄弟姉妹|修羅場3.3万字5 162 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127