"10年目のゲームボーイ" 第5話
子供向けの玩具。
若い男は慌てて拾う。
さらに権田の声がした。
「俺のじゃない」
そのは聞き取りにくかったが、
「おの母親」
という言葉だけがに入った。
若い男はらかにっていた。
箱をへ積み、勢いよくドアを閉める。
緑のビートルが駐をていった。
恵美は権田を見る。
先ほどとは違う疑問がまれていた。
「あの……もしかして息子?」
里子も同じことを考えていたらしい。
「さっき権田さん、警察に聞かれたも息子って言いかけたわよね」
恵美は息を呑んだ。
ゲームボーイ。
子供の玩具が詰まった箱。
権田の息子らしい男。
「里子」
「まさか追いかけるって言わないでしょうね」
「しだけ」
「恵美」
「お願い」
里子は眉を押さえた。
「のに勝に入ったり、危ないことをしたりしない。それが条件」
「分かった」
「話せそうなら話すだけ」
「うん」
里子はエンジンをかけた。
くにまだ、緑のビートルのろ姿が見えていた。
特徴な緑のを追うのは難しくなかった。
里子は自然にづきすぎないよう距を取りながら、同じをんだ。
「怪しまれないでよ」
恵美が言う。
「言っておくけど、私は刑事じゃないのよ」
里子は緊張を隠すように答えた。
は宅を抜け、郊の商業区へ入った。
しばらくしてウインカーが点滅する。
「あそこ」
ビートルは、黒く塗られた奇妙なの駐へ入った。
広告
の縁取り。
窓には骸骨や吸血鬼の飾り。
きな板には、
「ホラー雑貨 ナイトメアパーティー」
とかれている。
だが里子は線変更がにわなかった。
「しまった」
続もあり、急には曲がれない。
400メートルほど先でUターンし、戻ってきたには、若い男がきな買い物袋をつ抱えてからてきていた。
「い」
里子が駐へ入ろうとした。
その瞬、緑のビートルが急にバックしてきた。
「危ない!」
里子が急ブレーキを踏む。
台の距はわずかだった。
ビートルはそのまま乱暴に方向転換し、へびしていく。
「何なの、あの運転!」
里子の顔が青ざめていた。
恵美もシートにをつき、息をえる。
「もうやめようか」
里子が言った。
それでも数秒には、とも同じ方向を見ていた。
「……もうしだけ」
再び追った。
しかし今度は相の速度が速かった。
線を頻繁に変え、続のを抜けていく。
やがて踏切の警報が鳴った。
ビートルが通過した直、遮断がりる。
「嘘でしょう」
目のをい貨物列が通り始めた。
両。
両。
まだ続く。
恵美は膝のでを握りしめた。
列が通過するにも、緑のはざかっていく。
ようやく遮断ががる。
里子はをんだが、すぐ先に方向へ分かれる交差点があった。
「どっち?」
「分からない」
どのにもビートルは見えなかった。
広告
里子は肩へを寄せた。
「見失ったわ」
「仕方ないわ」
恵美はシートへもたれた。
自分でも、ここまで追ってきたことがし馬鹿げているようにえた。
「警察に話しましょう」
里子が言う。
「権田さんの息子らしいがいた。それだけでも、森田刑事なら確認できる」
「そうね」
は帰ることにした。
来たを戻り、先ほどのホラー雑貨のを通る。
恵美は窓越しにを見た。
「ねえ」
「何?」
「し寄らない?」
里子が驚いた。
「どうしたの、急に」
「分からない。なんとなく気になるの」
里子は先にているきなセールの横断幕を見る。
「そういえば、姪の誕がいのよね」
「じゃあちょうどいいじゃない」
「本来今は、普通にかける予定だったものね」
し引な理由だった。
けれどは駐へ入った。
入くでは若い員がしゃがみ、煙を吸っていた。
「いらっしゃいませ」
気だるそうに言う。
「すぐ戻りますんで、適当に見ててください」
内へ入った瞬、とは全く違う空気になった。
壁には怪物のマスク。
棚には吸血鬼、狼男、ゾンビの装。
偽物の血。
蜘蛛の巣。
スモークマシン。
センサー式の形が突然き、里子がさな鳴をげた。
「びっくりした!」
恵美もし笑った。
久しぶりだった。
こんなふうに、ただのの仕掛けで驚いたのは。
里子はのが散りばめられたの魔女装を見つけた。
「これ、姪にいいかも」
はレジへ向かった。
だが員はまだにいる。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第14話
雑用係の逆襲――百億の商談と偽りの女社長
病気の母の療養のため帰国し、学歴を「中卒」と偽って中小IT企業「藤山システム開発」に入社した森本大河。しかし傲慢な女社長・藤山薫からは「引きこもりの変人オタク」と蔑まれ、社運を賭けた百億円の新システム開発から外され雑用掃除係に追いやられてしまう。 だが大河の真の姿は、ハーバード大学を早期卒業しMIT大学院を修了した、世界が畏怖する伝説のスーパーホワイトハッカー「ミスター・モリティー」だった。迎えた海外メガIT企業首脳陣との商談当日、手配されていた通訳3名が全員ドタキャンし絶体絶命の危機に陥る。 「失敗したらクビ」と責任を押し付ける女社長の前で、大河が手元のコントローラーを操作して口を開いた瞬間、会議室の空気が一変する。そして明かされる社長の巨額不正と、タブレット端末に隠された決定的な証拠の行方は――。職場逆転|裡の顔1.9万字5 237 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 94 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 700 -
完結第21話
母を遠ざける姉の嘘
長野で一人暮らす母の介護を一手に担う姉から「母の体調が悪化するから来るな」と言われ、私は五年間帰省を控え、毎月五万円の仕送りを続けていた。だがある夜、母から五年ぶりに直接電話が入る。「まだ怒ってるの。あんたが私の顔も見たくないと言っていたと姉から聞いた」と母は怯えていた。直後に受話器を奪った姉は「母の被害妄想だ」と言い放つ。不審に思った私は姉に告げず始発の新幹線に乗り、五年ぶりに実家の引き戸を開けた。兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|介護3.2万字5 166 -
完結第21話
優しい教室で震える息子
息子が突然学校に行けなくなり、担任は「いじめなどなくクラス全員に愛されている」と胸を張った。不審に思った私が息子のランドセルを調べると、底板の裏から三十七枚の給食費受領書が出てくる。我が家は困窮などしていないのに、三ヶ月間、生徒全員が日替わりで息子の昼食代を立て替えていた。私が学校へ確かめに行こうとした瞬間、息子は「言わないで」と叫んで床に泣き崩れ、その紙片を必死に胸へ抱え込んだ。怒り|裡の顔|親子関係|金銭問題3.2万字5 6057 -
完結第15話
五人の元彼と三万一千円
結婚式当日の朝、ホテルのフロントに差出人不明の現金書留が五通届いた。中身はすべて、三万一千四百八十円という奇妙な端数のご祝儀だった。面識のない私の歴代の元彼五人からだと気づき、私は血の気を引かせて金庫への保管を頼み込む。だが、不審に思った夫が私の手提げから抜き取ったのは、三週間前に私がその五人へ同額を送金した明細だった。親族紹介まであと十五分、夫は控え室の鍵を閉め、冷たい目で私を見下ろした。夫婦|裡の顔|金銭問題|修羅場2.2万字5 166 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第18話
診察室に入れなかった私
妊娠七ヶ月、甲斐甲斐しく尽くす夫の言葉に従い、私は毎回待合室で温かい茶を飲んで待っていた。「異常なし」と笑う夫を疑ったことはない。だが夫が仕事で不在となり、初めて一人で診察室に入ると、医師は冷徹な面持ちで私を見据えた。向けられたパソコンの画面には、私が頑なに治療を拒み、夫が必死に説得したという記録が三回連続で並んでいた。その三回とも、私は一度も診察室に足を踏み入れていない。裡切られた|夫婦|裡の顔|修羅場2.8万字5 1753 -
完結第18話
顔合わせのすっぽかしと五通の裏切り
精密機械加工会社の令嬢・紗栄は、誠実に見えた恋人・弘樹と婚約を結ぶ。しかし両家顔合わせの直前から弘樹はモラハラを連発し横柄な態度へと急変。迎えた顔合わせの当日、高級料亭へ向かわず自室に留まる紗栄のもとへ、弘樹から「遅刻するな、調子に乗るな!」と激しい怒声が届く。 その瞬間、横にいた紗栄の父が電話を奪い取り一喝。「とぼけても無駄だ。お前の身辺調査は済んでいる」。 机の上に叩きつけられた興信所の分厚い茶封筒と、弘樹が抱える「5人の愛人」の証拠写真。怒り狂った弘樹が両親を連れて実家へ殴り込んできた時、彼らがひた隠しにしてきた信じがたい搾取の手口が暴かれ――。嫁姑|裡の顔2.7万字5 4070