"白いハンカチの約束" 第6話
けれどやはり、何かは起きていた。
いハンカチがなかった朝。
本当に異変があったのだ。
「どこの病院?」
トメが尋ねると、所の主婦が病院名を教えた。
トメの部には話がない。
すぐに5号棟へ戻り、銭を探した。
指先が震えて、財布のの貨を何度も畳へ落とした。
「落ち着け、落ち着け」
自分へ言い聞かせる。
へて、団入の赤い公衆話まで歩いた。
受話器を取り、教えてもらった番号を回す。
交換台を通して問いわせたが、族ではないため詳しいことまでは教えてもらえなかった。
「命に関わる状態ではないとだけ聞いております」
その言葉を聞いた瞬、トメは話ボックスの壁へ背を預けた。
「そうですか……」
受話器を置いてからも、すぐにはけなかった。
朝の気でガラスが曇っている。
では学たちが登していく。
昨までなら、
「毎朝いハンカチなんて何のがあるんだ」
とうもいたかもしれない。
けれどトメにとっては違った。
たった1枚。
ているか、ていないか。
それだけで、この朝に何かが起きたことをることができた。
午になると、清の状態が落ち着いたというらせが所へ届いた。
急な胸の苦しさで検査を受けたものの、幸い命に別状はなく、しばらく入院して様子を見ることになったという。
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トメはようやく座布団へ座った。
朝から何もべていないことに、その初めて気づいた。
窓のを見る。
3号棟4階の物干し竿には、もちろん何もない。
いハンカチのないベランダは、驚くほど寂しく見えた。
翌朝も、ハンカチはなかった。
けれど今度は理由をっている。
トメは茶い座布団をさなかった。
「帰ってきてからでいいよ」
誰もいない向かいのベランダへ、そうつぶやいた。
翌の午。
が団へ戻ってきた。
晩ほとんど眠っていないのか、目元には疲れが残っていた。それでも清の状態が落ち着いたことで、表には堵が戻っている。
3号棟の入まで来ると、そこにトメがっていた。
「トメさん?」
が驚く。
トメは腕を組み、じっとを見た。
「びっくりしたじゃない」
「え?」
「昨の朝」
はし考え、すぐにが分かった。
「あ……」
「7になってもない。7半になってもない。8になっても何にもない」
トメの声はっているようでいて、途からし震えていた。
「4階までがったんだよ、私」
は申し訳なさそうにをげた。
「ごめんなさい」
「本当にもう」
「清が急に胸を押さえて、私も慌てちゃって……」
「そりゃハンカチどころじゃないよ」
トメはため息をついた。
「清さんは?」
「落ち着きました。先も、すぐどうこうなるものじゃないって」
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「そう」
その言を聞くと、トメの険しかった顔がようやく緩んだ。
「よかったよ」
2がそんな会話をしているところへ、隣の主婦が階段からりてきた。
昨、トメと緒に松田ので騒ぎになった女性だった。
「あ、松田さん。ご主、丈夫でした?」
「ご配かけました。今は落ち着いてます」
「よかった」
主婦はした、し迷うようにとトメを交互に見た。
「あの……」
「何です?」
「昨からずっと気になってたんですけど」
主婦は5号棟と3号棟のを見る。
「いハンカチって、いったい何なんですか?」
とトメは顔を見わせた。
しばらく沈黙した、トメが先に笑った。
「とうとう聞かれたね」
も笑う。
「子どもたちには秘密って言ってたんだけど」
「え? 秘密なんですか?」
「した秘密じゃないですよ」
はそう言いながら、階段のすりへを置いた。
まだ病院から戻ったばかりで疲れていたため、3はそのまま団入脇のベンチへ腰掛けた。
「のなんです」
が話し始めた。
「トメさんが部で倒れたことがあって」
主婦の顔が変わる。
「そうだったんですか?」
「夕方まで誰にも気づかれなかったの」
トメが自分で言った。
「聞が残ってたから見つけてもらえたんだよ」
「それで清が考えたんです」
は向かいの5号棟を指した。
「話を毎朝するのも変だし、毎へけばトメさんが嫌がるでしょう」
トメがすぐにを挟む。
「嫌がるよ。毎朝来られたら、茶くらいさなきゃいけないじゃないか」
主婦がわず笑った。