"飛騨の農家に消えた嫁" 第8話
自分から話すほどのことでもないとい、だけが過ぎた。
もう1つ、いがけない証言が現れた。
蔵の甥、茂夫だった。
事件当38歳で、現は京にんでいた。
渡辺から連絡を受けた4、茂夫は自ら警察署を訪れた。
子へ座るなり、番こう言った。
「ずっとから、話した方がいいとっていました」
事件発から3ほど経った頃。
茂夫の自宅へ、叔父の蔵から突然話があった。
内容はかった。
「数、おがうちに来たことは誰にも言うな」
茂夫はが分からなかった。
蔵は続けた。
「何も見なかったな。分かったな」
それだけ言うと話は切れた。
茂夫は受話器を持ったままち尽くした。
「でも私、その頃叔父のなんかってないんです」
渡辺はき取っていたを止めた。
「本当に1度も?」
「はい。なくとも事件ののにはっていません」
蔵は、実際にはそこにいなかった甥に対してまで、
「何も見ていないと言え」
と止めしていたことになる。
誰が、どこまで見たのか。
自分でも把握できず、関係者になり得そうなへ片っ端から牽制していた能性があった。
渡辺は過のも洗い直した。
失踪届提、堆肥を1で掘り返していた。
2、庭で類らしきものを燃やしていた。
1214、軽トラックの荷台まで執拗に洗浄した。
広告
その8、堆肥のすぐ横にある壺周辺へ族をづけなかった。
夜に「片付けろ」「誰もらない」と寝言を繰り返した。
農をれて老施設へ入る話がると、激しく拒絶した。
1つずつなら説できるかもしれなかった。
しかし全てを並べると、同じ所をにした自然さが浮きがった。
渡辺は健にも改めて事を聞いた。
「奥さんが失踪する、ので何か問題はありませんでしたか」
健はく黙った。
8には「何もなかった」と答えている。
今回は違った。
「親父とは……うまくいっていませんでした」
「どういうです」
「ゆき子が子供を産まないことで、親父が々言っていました」
「あなたは止めなかったんですか」
健は俯いた。
「その頃は、親父に逆らえませんでした」
「ゆき子さんが実へ帰りたいと言ったことは?」
健はさらにく黙った。
「ありました」
「8、警察には言いませんでしたね」
「だとったから……」
渡辺は健の顔を見た。
「本当に、そうっていたんですか」
健は答えなかった。
再婚したゆみからも話を聞いた。
壺の周りに誰もづけなかったこと。
夜の寝言。
堆肥置きを見つめていたこと。
施設への入居を異常なほど嫌がったこと。
全てを聞き終えた渡辺は、蔵本へ任同を求める判断をした。
200374。
66歳になった蔵は、杖をついて警察署へ現れた。
広告
取り調べへ入り、子へ座った。
刑事たちをゆっくり見回した。
怯えているようには見えなかった。
むしろ、く何かを背負い続け、疲れ切ったの顔だった。
渡辺は急がなかった。
まずDNA鑑定の結果を机へ置いた。
「堆肥のから見つかった方は、ゆき子さんでした」
蔵はを見た。
何も言わなかった。
次に法医学所見を置いた。
「部に、鈍器によるものと考えられる陥没骨折があります」
蔵の目が瞬止まった。
最に、甥の茂夫の供述調を置いた。
「事件の3、あなたは茂夫さんへ話していますね」
蔵は初めて顔をげた。
「『うちに来たことは言うな。何も見なかったな』と」
沈黙した。
「ですが、茂夫さんは来ていない」
蔵の線が窓のへ移った。
の差しが取り調べへ差し込んでいた。
そのまま30分く、誰も話さなかった。
渡辺は沈黙を崩さなかった。
蔵のには3つの類が並んでいた。
ゆき子のDNA鑑定結果。
蓋骨の損傷についての法医学所見。
そして甥の茂夫の供述。
窓のでは蝉の声がしていた。
取り調べの計だけが、規則正しくを刻んでいた。
やがて蔵の肩がさく落ちた。
「私がやりました」
く、かすれた声だった。
渡辺は表を変えなかった。
輩刑事が記録を取るを止めかけた。
再び沈黙が流れた、蔵は1995127のことを話し始めた。
発端は、そのの朝だった。
ゆき子が富の母、涼子へ話をしていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51