"嫌われた娘の五十八億円" 第3話
本来であれば忌けを待つべきところですが、源蔵様より、「告別式の夜、付が変わった午に、必ず真様へ直接連絡を入れ、ある極秘の類と預かり物を渡すように」と、分単位の厳格な指示を受けておりました』
真の背筋にたいものがった。
「兄の修からは、父には遺言などせず、遺産はすべて兄たちが相続することになっていると聞かされましたが……」
受話器の向こうで、桐弁護士が微かにややかな吐息を漏らした。
『修様たちがるはずもありません。源蔵様がかけて構築された“最の防壁”ですから』
「防壁……?」
『はい。今から分、そちらの団のに私のを回します。源蔵様が命を賭してあなただけに遺された「真実の遺産」と「記」をお渡ししなければなりません』
「今から、ですか……?」
『ええ。夜がければ、精を取り巻く“ある危険な連”がきします。そのに、あなたにすべての全貌を把握していただく必があるのです』
通話はそこで方に切れた。
分、真が傘を差して団の駐輪へりると、たいのる暗のに、黒塗りのセンチュリーが台、静かにアイドリングしていた。
部座席のスモークガラスががり、髪を隙なくえた老紳士――桐弁護士が真を招きした。
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内に乗り込むと、桐弁護士の隣には、黒いスーツを着た柄な助らしき男性が無言で控えていた。桐は膝のに、真鍮の頑丈な具がついた黒革のアタッシュケースを置いた。
カチリ、カチリとな音をててダイヤルロックがされる。
から取りされたのは、厳に封印されたつの異様な品だった。
つは、最裁判所の認証印と公証役の確定付が押された、分い『公正証遺言』。
つは、青い封蝋で固く閉じられた、真宛てのの封。
そしてもうつは――血のような赤茶の染みが点々とこびりついた、角の擦り切れた古い学ノートだった。表には掠れた油性ペンで『昭〜 源蔵』と震える文字でかれている。
桐弁護士は、まず公正証遺言の表をき、真の目のに差しした。
「真様。単刀直入に申しげます。源蔵様の遺産総額は、修様たちが把握している億千万円などという端したではありません」
桐は淡々と、だが信じがたい事実を告げた。
「精の全株式、田区の本社敷、さらにはスイスのプライベートバンクに極秘裏にプールされていた無記名債券および貴属――総額、約億円。その全額を、女・真様が単独で相続します」
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「ごじゅう……はちおく……!?」
真の喉から、掠れた鳴のような声が漏れた。内の静寂ので、その数字だけが現実を失って宙に浮遊しているようだった。
「な、何を仰っているんですか!? 何かの違いです! 父のは、いつ倒産してもおかしくない零細企業で、借まみれだと昔から兄たちが……!」
「修様や慎様に見せていた帳簿は、すべて源蔵様が周到に作りげた“偽装の赤字決算”です」
桐弁護士の声は静かだが、鋼のような絶対の確信に満ちていた。
「そして、修様と慎様には、遺留分として『精が抱える簿債務千万円の連帯保証債務の承継』のみが遺贈されるよう、法な罠が完璧に張り巡らされています。これにより、会社の全経営権、財産権、ならびに主資産の継承者は、本この瞬より、真様おです」
真ののは激しいパニックに陥った。
昼に斎の控で兄たちから浴びせられた酷な言葉、みすぼらしい喪を嘲笑された屈辱、そして目のに突きつけられた億円という文学な数字。つの現実がどうしても結びつかない。
「どうして……どうして父はそんなことを……? 父はずっと私のことを憎んでいたはずです! 幼い頃から度も笑いかけてくれず、私の顔を見るのも嫌だと、病でも……!」
「真様」
桐弁護士の差しが、く、痛ましいほどの温かさを帯びた。
「源蔵様は、あなたを憎んでいたのではありません。むしろ逆です。命よりも切にしていたからこそ、にわたり、あなたをのからざけ、自ら悪魔の仮面を被り続けなければならなかったのです」
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