"嫌われた娘の五十八億円" 第8話
真は父の記と遺言を鞄に収め、朝ののへと力く歩みした。
、午分。
田区に建つ精の本社ビル。階の加現では、勤めげてきた熟練職たちが、油の匂いがち込める作業で具をにち尽くしていた。誰の顔にも濃いとりが張り付いている。
階の会議の扉は固く閉ざされ、からはけたたましい笑い声が漏れ聞こえていた。
内では、男の修が座の社席に革張りのエグゼクティブチェアを持ち込み、ふんぞり返っていた。指先にはのついた級葉巻を挟み、煙を井へとくゆらせている。
「おい、慎。の支への根回しは完全に終わったんだろうな?」
修が傲に顎をしゃくると、隣に座る次男の慎が縁の鏡を押しげ、ら笑いを浮かべて答えた。
「ああ、万全だよ兄貴。親父の個座にあった億千万円の預は、すでに俺の支を通じて仮凍結解除の続きをめている。遺産分割協議さええば、兄貴と俺の座へ即座に均等送される筈だ。あの貧乏神の真には、昨斎で突きつけた『相続権全面放棄申』を郵送で送りつけてある。あの性格だ、どうせ泣き寝入りして判子を押すさ」
ソファ席では、修の妻・美津子と慎の妻・絵里が、シャンパングラスを片にブランド物のバッグを並べて談笑していた。
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「本当、せいせいしたわね」
美津子が赤いマニキュアを塗った爪でグラスを揺らす。
「あの真とかいう女、昨の葬儀でものみすぼらしい喪を着てきて、親戚同の笑いものだったわ。お父様も、あんな来損ないをさっさと勘当同然に追いして正解だったわよ。これからは私たちのね。ねえ修さん、約束通り、目黒のタワーマンションの最階、今週末に契約していいわよね?」
「もちろん好きにしろ」
修はを鳴らし、部の隅に控えていた目つきの鋭い男――暴力団・嶺会の息がかかったフロント企業「黒崎ホールディングス」の顧問弁護士、鮫島に線を向けた。
「鮫島先、黒崎の親分への納の件だが、来期からはの敷半分を取り壊して、親分の組織の『特殊物流継拠点』にする計画でめてもらって構わない。職どもが騒いだら全員クビを切って、国労働者をく買い叩けばいい」
鮫島は笑を浮かべ、軽く会釈した。
「話がくて助かりますよ、修社。先代の頑固親父と違って、あなた方は話が分かる。これでが組織との絆も盤だ」
その、壁の計が午ちょうどを告げる鐘を鳴らした。
修は槌を取り、テーブルを力任せに叩いた。
「これより、株式会社精の緊急臨役員会を会する! 議題はだ。
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代表取締役・源蔵の逝に伴い、この俺・修が全株式を継承し、代表取締役社に就任する! また次男・慎を専務取締役に――」
バアンッ!
な防音ドアが、蹴破られたかのような激しい音をててけ放たれた。
「その会議、法な効力は切しません」
静寂を切り裂いて響いたのは、凛とした、だが鋼のように徹な女性の声だった。
役員にいた全員の線が斉に入へと向けられた。
そこにっていたのは、仕ての良い漆黒のイタリア製パンツスーツにを包んだ真だった。
昨の擦り切れたみすぼらしい化繊の喪姿はどこにもない。髪をろでタイトに束ねげ、背筋を真っ直ぐに伸ばし、会議を射抜くように見据えるその差しは、全盛期の源蔵の鋭利な気迫そのものだった。
そして真の背には、千代田第法律事務所の桐弁護士、さらには最検察庁特別捜査部のバッジを胸につけた屈な捜査官たち、そしてスイス使館付きの公認法務監査官が無言で隊列を組んで控えていた。
修は子からび起き、顔を真っ赤に鬱血させて鳴り散らした。
「真……!? 貴様、何の真似だ! みすぼらしいパートタイマーの分際で、この神聖な役員会にで踏み込んでくるな! 警備員を呼べ! こいつをつまみせ!」
「警備員なら、すでに警察の指示に従って全員待させてあります」
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