"手書きの時刻表" 第1話
昭454、国鉄川駅の朝は、まだ夜のたさを残していた。杉林に囲まれたあいではの訪れが遅く、ホームの端にはの名残のようながく残っている。
午510分、駅舎の引き戸が内側からいた。
紺の制を着た田修は、箒とちり取りを持ってホームへた。い息を吐きながら待のを掃き、昨夜のに運ばれた杉の葉を線脇へ集める。
田は59歳。川駅に勤め始めてから、すでに34が過ぎていた。
若い頃に2だけ隣県のきな駅へ異したことはあったものの、それ以の勤務はすべて川駅だった。髪にはいものが増え、切符へ鋏を入れるの節も太くなっていたが、朝番に駅へ来る習慣は変わらない。
川駅は、あいの町にあるさな国鉄駅だった。造平の駅舎にいホームが2本あり、駅には自転預かり所と古い堂、それに赤い郵便ポストが置かれている。
する列はわせて1に18本。朝夕には通学や製材所の従業員で賑わうものの、昼に乗りりするのは数程度だった。
田は、ほとんどの利用者を名で覚えていた。
午542分のり列でへ向かう野。618分の列に乗るの川兄妹。に2度、へ菜を売りにくトヨ。町診療所で対応できない治療を受けるため、隣の病院へ通う田フミ。
広告
切符を売るから、き先の分かる客もなくなかった。
掃除を終えた田は、改札の計を見げた。針は午535分を指している。
駅舎のから、自転のブレーキが鳴った。
「おはようございます、田さん」
2の川正が、妹の由紀を連れて入ってきた。正の制の肩には解けの雫がつき、由紀は赤い袋を片方だけはめている。
「由紀ちゃん、の袋はどうした」
「をるにはあったのに、途で落としました」
「列まで7分ある。待にいなさい」
田は箒を置き、自転置きまで続くを戻った。もなく、の脇に落ちた赤い袋を拾って戻ってくる。
「ほら。母さんに叱られずに済むな」
由紀は嬉しそうに袋を受け取った。
そんなやり取りをしているうちに、の向こうから列の音が聞こえ始めた。田は表を引き締め、改札へった。
「もなくり列が参ります。線の内側までがってください」
2両編成の列が、朝を押し分けるようにホームへ滑り込む。扉がくと、炭ストーブで温められた内から、通勤客や学の話し声が漏れた。
田は乗客を見送り、最に掌へをげた。
発ベルが鳴り、列はい煙を残しての先へ消えていった。
それが、川駅の変わらない朝だった。
だが、本の鉄を取り巻く代はきくき始めていた。
広告
主駅では、座席予約や運管理にコンピューターが導入されている。本部で統された資料が作られ、方の駅にも印刷された正確な刻表が配られるようになった。
作業に頼っていた仕事は、しずつ械へ置き換えられていた。
410、川駅へしい職員が配属された。
名は健、24歳。京郊の駅で3勤務した、方勤務の経験を積むため川駅へ赴任してきた青だった。
「本からお世話になります。健です」
よく磨かれた靴を揃え、は事務でくをげた。
田は湯みを置き、穏やかに答えた。
「田だ。ここでは都会の駅ほど客はくないが、覚えることはなくないぞ」
「承しています。しい運管理の研修も受けてきましたので、事務作業ではお役にてるといます」
はきびきびとき、計算にも械の操作にもかった。本部から送られてくる指示を素く理し、田がをかけて記入していた報告を半分ほどので仕げた。
田も、若者の能力を素直に認めた。
ただ、には理解できないものが1つあった。
毎末になると、田は駅員の隅にある古い机へ座り、分いノートをく。定規で線を引き、列の刻や乗り換えをき写した、その余へ細かな文字をき込んでいくのだ。
が初めてその景を見たのは、配属から3週だった。