"米蔵を開けた娘" 第2話
運賃。
を借りるための費用。
借入の返済。
み込みで働く奉公の。
女の費。
帳面のいっぱいに、細かな数字がびっしり並んでいた。
千代もを伝っているから、算盤は使える。
しかし、父が毎晩何を計算しているのか、細かなまで見たことはほとんどなかった。
徳蔵は仕入れ値の欄を指で叩いた。
「先までと違うやろ」
千代は数字を追った。
確かにがっている。
「今この値段で全部売ったら、同じだけ仕入れられへん」
「でも、お客さんは今困ってる」
「こっちも困ってる」
徳蔵の返事はかった。
「問は待ってくれへん。次の米は今よりいかもしれん。現で払え言われることも増えとる」
「せやから、もっと値段ががるまで待つん?」
千代が聞くと、徳蔵の眉がわずかにいた。
「待って儲けようとしてるとうんか」
「そう見えるもおるよ」
「おもか」
その言葉に、千代は返事をしなかった。
徳蔵はく息を吐いた。
「商売いうのはな、今だけけたらええんと違う」
にはみ込みの番が2いる。
佐吉と、もう1の番。
それに僧が3。
炊事や洗濯をする女もいる。
彼らのはからていた。田舎に族を残している者は、そのをへ送っている。
「う全部売って、蔵空っぽにして、次が買えんようになったらどうする」
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徳蔵は言った。
「が潰れたら、誰があいつらわせる」
千代は黙り込んだ。
父の言うことが、全く分からないわけではない。
子どもの頃からを見てきた。
作のもあった。
問との支払いで父がを抱える姿も見た。
しかし、帳面にかれた数字を眺めていると、朝の女の財布のにあった銭がい浮かんだ。
そこにかれていないものがある気がした。
「お父ちゃん」
「なんや」
「お客さんのことは、どこにいてあるん」
徳蔵が顔をげた。
「何やそれ」
「この帳面には仕入れももいてある。でも、今半分しか買われへんかったのことはいてへん」
徳蔵は瞬、言葉を失った。
だがすぐに線を帳面へ戻した。
「商売の帳面に、そないなことくもんやない」
「でも、そのらがおらんかったらもないやろ」
「千代」
父の声がくなった。
「おはまだ、商売をらん」
それ以話しても無駄だというように、徳蔵は再び算盤をに取った。
千代もを閉じた。
けれど納得したわけではなかった。
翌朝。
また1の母親がへ来た。
まだ30歳にも見えない若い女だった。
背には赤ん坊を背負い、横には5歳くらいの男の子がっている。
「ください」
母親が言った。
番の佐吉が値段を伝える。
女は握りしめていた銭を、帳のへ1枚ずつ並べた。
りなかった。
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何度数え直しても同じだった。
「昨なら、これで買えたんです」
「すんません」
佐吉は申し訳なさそうにをげた。
が勝に値段をげているわけではない。
それでも、客から見ればにを払う。
だからりもしみも、目のにいるの者へ向けられる。
女はしばらく銭を見つめていた。
「半でええです」
佐吉がを持った、男の子が母親の袖を引いた。
「お母ちゃん」
「何や」
「今、ご飯いっぱいべられる?」
女は瞬だけ目を伏せた。
それから、子どもへ笑いかけた。
「べられるよ」
るい声だった。
けれど千代には、その笑顔が嘘だと分かった。
男の子をさせるためだけの笑顔だった。
女が帰ったも、その声がに残った。
ご飯いっぱいべられる?
千代はの奥から、裏の蔵へ目を向けた。
壁枚向こうには、米俵が積まれている。
それでも、あの子のでは今夜、腹いっぱいべられないのかもしれない。
そのの午。
町へ、富で女たちが米の積みしを止めようとしたという話が伝わってきた。
「米をく売れ」
「へすに、こっちに回せ」
々が集まり、声をげているという。
聞も米価の騰をきく扱い始めていた。
千代は記事を読みながら、胸のに言葉にならないが広がっていくのをじていた。
富で始まったという騒ぎは、いだけの話では終わらなかった。
数もしないうちに、阪の町でも々が米のに集まるようになった。
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