"日本人に戻れた父、戻れなかった娘" 第10話
美津子は何も言わなかった。
宗郎はしばらく写真を眺めた。
それから、ゆっくり頷いた。
「そうだな」
その答えを聞いて、美津子は静かに笑った。
昭27428。
本はきな節目を迎えた。
講条約の発効によって、戦のつの代が終わり、しい歩みが始まった。
宗郎にとって、そのはい待ち続けただった。
戦争が終わっても、気持ちのどこかではまだ終わっていなかった。
陸で築いたを失った。
を失った。
と別れた。
持っていた物の半を置いてきた。
本へ戻れば、全てが元に戻るとったわけではない。
それでも、
「帰ってきた」
という言葉だけが、自分を支えていた。
だから講条約が発効した朝、宗郎はからんだ。
「これで俺たちも、ようやく本に戻れたようなもんだ」
その言葉は、宗郎自にとっては嘘ではなかった。
だが娘は黙っていた。
美津子にとって、本は「戻ってきた国」ではなかった。
14歳で初めて暮らし始めただった。
父が懐かしがる岡の町に、美津子の幼い頃の記憶はなかった。
祖父のがあると言われても、そこへ帰りたいとったことはなかった。
美津子が帰りたかったのは奉のだった。
学だった。
だった。
友達のいる町だった。
けれど、その所へ戻ることはできなかった。
父にとっての帰国は、娘にとっての喪失だった。
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同じ族が、同じ来事を、正反対ので受け止めていた。
宗郎はい、そのことに気づかなかった。
自分が本なら、娘も同じ気持ちのはずだとっていた。
自分が本へ帰れて嬉しいなら、娘も嬉しいはずだとっていた。
そして娘が、
「ここがなの」
と泣いた、理解できずに頬を叩いた。
それは宗郎にとって、く消えない記憶になった。
方、美津子も父の気持ちを理解していたわけではなかった。
本を「故郷」と呼ぶ父を見るたび、自分の奉での活を否定されているとじていた。
けれど父が押し入れの奥に写真を残していたことをった。
の写真。
の写真。
幼い娘の写真。
「昔のことは忘れろ」
と言っていた父自が、忘れられずにいた。
宗郎もまた、失ったを抱えてきていたのだ。
ただ、その喪失を認めることが怖かった。
本へ戻れたのだから幸せだとわなければならない。
そううことで、自分を支えていた。
父と娘のにあった溝は、どちらかが違っていたからまれたわけではなかった。
同じ「故郷」という言葉に、別々の所をい浮かべていたからだった。
美津子は修と結婚し、岡で庭を作った。
いつのにか、最初はらない町だった所に、自分の活が積みなっていった。
働いた郵便局。
修と歩いた。
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。
娘がまれた。
それらは、奉の記憶を消すものではなかった。
しい記憶が増えたからといって、古い記憶を捨てる必はなかった。
娘から、
「故郷?」
と聞かれた、美津子は初めて迷わず答えられた。
「お母ちゃんの故郷のつ」
それは、20歳の頃には言えなかった言葉だった。
昔の美津子は、つを選ばなければならないとっていた。
奉を故郷と呼べば、本ではないとわれる。
岡を故郷と呼べば、13の自分を裏切るようにじる。
どちらかを選ばなければ、自分の居所がなくなるとっていた。
だが、本当はそうではなかった。
国はつでも、のに残る所はつとは限らない。
帰れない所を故郷と呼んでもいい。
から暮らし始めた所を、をかけて故郷にしてもいい。
どちらも自分の部として持っていていい。
それを最初に認めてくれたのは、修だった。
「美津子が子どもの頃にんでた町なら、りたい」
その言葉によって、美津子は初めて、奉を歴史ののいとしてではなく、自分のの部として話すことができた。
そして最には父も認めた。
「故郷かどうかは、おが決めろ」
その言葉を聞いた、美津子はようやく、自分のを誰かに説する必がなくなったようにじた。
昭27の。
ラジオので父はんだ。
娘は黙っていた。
同じニュースを聞いていたのに、見ていた景は違っていた。
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