"18年妻だったのに、他人にされた" 第1話
治31の、信州のあいをたいが通り過ぎた翌朝だった。宿町のれにある酒「松乃」では、の葬式で焚いた線の匂いがまだ座敷に残り、い布を掛けた祭壇のには消えかけた蝋燭が本並んでいた。主の清吉は流り病に倒れてからわずか5で息を引き取り、48歳という働き盛りの齢で、妻との子どもを残した。
妻の千代は、通夜から葬式までほとんど眠っていなかった。所の女たちと煮物をこしらえ、方から来た親類へ茶をし、女のふさと末娘のが泣きせば背をさすり、14歳の啓太郎には弔問客への挨拶を教えた。しむ暇がないという言葉を、それまで千代はげさな言い回しだとっていたが、夫をくして初めてそのが分かった。
清吉とは18連れ添った。17歳になったふさ、14歳の啓太郎、9歳のを育て、そのに18回の正を同じ根ので迎えた。清吉が仕入れで町をれるは千代が番をし、朝から徳利を洗い、量り売りの酒を客へ渡し、夜になれば灯ので掛け売りの帳面をつけてきた。
町の者も千代を「松乃の奥さん」と呼んだ。旅籠の主も、魚の女将も、寺の尚もそう呼び、千代自も自分がそれ以の何者であるかなど考えたことがなかった。清吉と夫婦喧嘩をした夜ですら、自分がこのの妻であることだけは疑わなかった。
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その考えが崩れたのは、葬式の翌朝だった。
朝の片づけが段落した頃、清吉の兄である惣兵がで松乃へやってきた。惣兵は清吉より6歳で、本を継いでいる男だった。昨までは葬儀を取り仕切り、親族のでも千代を何度も「弟の嫁」と呼んでいたため、千代はてっきりの今について相談しに来たのだとった。
ところが、惣兵は座敷へがると呂敷のから冊の類を取りした。町役で確認してきたのだと言い、いつもの無な顔よりさらにい表で千代のへ置いた。祭壇から流れてくる線の煙の向こうで、そのだけが妙にく見えた。
「千代さん。し話がある」
「のことでしょうか」
「だけじゃない。清吉の戸籍を確認してきた」
千代には、なぜ葬式の翌朝にそんなものを確認する必があるのか分からなかった。惣兵は何度か言いにくそうにをきかけ、最には腹を決めたように千代を見た。
「あなたは、清吉の妻として入っていない」
瞬、が分からなかった。
「何を言っているんです」
千代はわず笑いそうになった。18も緒に暮らし、の子どもまでいる夫婦に向かって言う言葉ではないとったからだった。しかし惣兵は笑わず、正式な婚姻の続きが済んでいないのだと繰り返した。
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千代の喉が詰まった。
18、まだ農の娘だった千代は、祭りのに清吉とりった。商の息子だった清吉には別の縁談がめられており、が緒になりたいと言った、清吉の父は「百姓の娘を商の嫁にはできない」と激しく反対した。それでも清吉は千代を選び、父と喧嘩をした末にをた。
数、父が病気になったことでは町へ戻った。本所のさな建物を清吉に任せるという話になり、そこで始めたのが松乃だった。千代は、その点で本から夫婦として認めてもらえたのだとっていた。
清吉も何度も言った。
「もう昔の話だ。俺たちは夫婦なんだから、それでいい」
だから千代は疑わなかった。
「でも、子どもがいるんですよ」
千代の声は自分でも分かるほど震えていた。
「18ですよ。昨まで皆さん、私を清吉さんの妻として扱っていたじゃありませんか」
「緒に暮らしたを否定しているんじゃない」
「では、何を否定しているんです」
惣兵はしばらく目を伏せたあと、い声で答えた。
「の話だ」
その言葉は、千代がこの18に浴びせられたどんな悪よりたくじられた。
松乃のもも、今なお本の名義だった。清吉はそこで商売を任されていただけで、形式は完全に独したを構えた形になっておらず、酒の仕入れに使った資の部にも本から借りたものがあった。
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