"帳簿から消えた14歳" 第2話
布団に入ったハルも、枕元でさく笑った。
「ほんなら、夜番なくなるんかな」
「なくなった方がええやろ。あんた、このなんかったまま寝そうになってたやん」
「でも夜番なくなったら、その分のも減るんちゃう?」
その言葉に、トミは瞬黙った。それでも妹の眠そうな顔をえば、より先に体の方を考えたくなった。
「何とかなるよ。法律できたんやから」
そう答えたトミは、その、本当にしだけしていた。
ところが翌朝、起の鐘が鳴った刻も、の械がき始めた刻も、のまでと何つ変わらなかった。
法が始まったと聞いた翌朝も、崎の鳴り声は暗い作業に響いた。ハルはいつもと同じ持ちで瓶を洗い、トミは蒸した原料を桶へ移し、夜番の札には昨までと同じ若い娘たちの名が並んでいた。寄宿舎であれほど騒いでいた娘たちも、、と何も変わらないが続くと、次第に法律の話をにしなくなった。
「役が言うだけで、ほんまは何も変わらへんのとちゃう?」
同のヨネが、夕の芋を箸で割りながら呟いた。ヨネはハルと同じ14歳で、滋賀の農から来ていたが、母が再婚して居所がなくなり、12歳の終わりからを転々としていた。
「けど、このちゃんとのも聞いてたやろ」
トミが答えると、隣で16歳のキクが苦笑した。
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「聞くんと守るんは別や。崎さん、役帰ったあと『余計なもんが始まった』言うてたで」
ハルはその話を聞いていたが、何も言わなかった。トミが気になったのは、法律の説があったから、ハルが々事務所の方を気にするようになったことである。
数、トミは箱詰めした商品の伝票を事務所へ届けるよう言われた。事務所には誰もおらず、机のには墨壺と算盤、注文票、その横に分い帳簿がかれていた。表には黒い墨で「職名簿」とかれており、トミは何となく自分たちの名も載っているのだろうとった。
最初に自分の名を見つけた。
松崎トミ、19歳、奈良県吉野郡――。
そのすぐに妹の名があるはずだった。ところが何度目で追っても「松崎ハル」は見つからず、同じ寄宿舎にいるヨネや、15歳になったばかりのシズの名もなかった。
代わりに、そのくに見覚えのない名が並んでいた。
松崎吉、17歳、男。
所は奈良県吉野郡のトミたちのだった。入職まで、ハルがへ来たと致している。
トミは最初、自分が読み違えたのだとった。しかし「吉」の横にかれた親族名には、んだ父・松崎源蔵の名があり、そのには母サキの名まで記されていた。名字も所も族も同じでありながら、齢と性別だけが違っている。
そんなは、松崎にはしなかった。
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廊から音が聞こえ、トミは慌てて帳簿からをした。入ってきた事務員の野はトミを見ると眉をひそめ、「伝票そこ置いたら戻ってええ」とだけ言い、すぐに帳簿を閉じた。
そのの夕方、トミは妹の姿を注して見た。ハルはいつも通り働き、いつも通り同僚と笑っていたが、崎が事務所からてくると線をげた。その反応を見た瞬、トミの胸のに嫌な確信がまれた。
夜、寄宿舎の皆が寝る支度を始めるのを待ってから、トミはハルを廊へ連れした。
「ハル、吉って誰?」
妹のが止まった。
ほんの瞬のことだったが、それだけで分だった。
「らん」
「うち、今帳簿見た」
ハルは返事をしなかった。廊の向こうでは誰かが笑っており、台所から湯を沸かす音が聞こえていたが、のだけ空気が固まったように静かだった。
「松崎吉、17歳、男。所もうちと緒、入ったもあんたと緒や。あれ、何なん?」
ハルはしばらく唇を噛んでいたが、やがてさく答えた。
「名だけや」
「何が名だけや」
「のが、そうしといたらええって言うたんや」
トミはが分からず、妹の顔を見つめた。するとハルは観したように、法律の話がた数、崎と事務員の野から事務所へ呼ばれたことを話し始めた。
には役所へ見せる名簿と、実際の勤務を管理する別の帳面があるという。
齢の若い娘や、役に見られると都の悪い働かせ方をしている者は、表向きの名簿では者や男、あるいは実しない職としてき換えられていた。
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