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"一万八千円の伝票" 第30話

という笑顔と、の通いいなのだ。この笑顔を取り戻すために、私は戦ってきたのだと、胸の奥底でく噛みしめていた。

、チェックアウトのが訪れた。 フロントカウンターの向こうには、背筋をピンと伸ばした林さんがっていた。 おじいさんが部の鍵を返却すると、林さんは丁寧に計算を差しした。

付き、お様で、千円でございます」

そこには、謎の特別も、理尽なワイン代もしない。 私たちが提供した本物のサービスに対する、正当な、誇りある代だけが記されていた。

おじいさんはしたように財布をき、きちんとおを支払ってくださった。

「本当にお世話になりました。はどうなることかとったけれど……最の、忘れられない婚式のになりましたよ」

「こちらこそ、当館をお選びいただき、本当にありがとうございました」

林さんは々とげた。 おが玄関でタクシーに乗り込むのを、私を含めた全従業員がに並び、総で見送った。

「また来、必ず来ますからね!」

窓からを乗りすようにしてを振ってくださるおばあさんに、私たちもきくを振り返した。 タクシーがあいの々の向こうへ見えなくなるまで、誰としてそのろうとはしなかった。

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吹き抜けるは肌寒かったが、私の胸のは、かつてないほどの温かなで満たされていた。

あれから、が流れた。

季節は巡り、々は化粧を纏っていた。 元支配は、そのの警察の綿密な取り調べによって余罪が次々と暴かれ、業務横領および詐欺の罪で正式に起訴された。彼らが私腹を肥やすために隠し持っていた裏は、林弁護士を通じて全額がホテルへと返還された。 その資は、被害に遭われた過のお客様への真摯な返と、放置されて老朽化していた客や配管の修繕費用として、円の無駄もなく切に使わせていただいている。資系ファンドへの売り話など、今や完全に過だった。

私は医師の許を得て療養施設を正式に退所し、再びこのホテルのオーナー兼女将として、現へ完全復帰を果たした。 齢や体のこともあり、昔のように朝から晩まで最線でち回ることは叶わない。けれど今、私の周りには、松島板や復帰してくれたベテランたち、そして目覚ましい成を遂げた林さんたち若い世代が、私のとなって力く宿をかしてくれている。

「女将さん! しい献の試作ができました、見をお願いできますか?」 「女将さん! 先お泊まりいただいた常連の渡辺様から、温まるお礼のおが届きましたよ!」

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館内には毎、活気と笑顔に満ちた声が響き渡っている。 古き良き伝統と、若者たちのしい創夫が溶けい、ホテルは確かな歩みでまれ変わり続けていた。

夜、静まり返った支配。 かつてが驕りぶっていた、あの悪趣な成具やけばけばしい絵画は、すべて綺麗さっぱり処分した。 代わりに部央に据えられたのは、倉庫の奥から埃を払って引きしてきた、夫の健使い続けていた、あの古い素朴な製のデスクだった。

傷だらけで、所々ワックスが剥げ落ちた机。 けれど、私にとっては世界で番誇らしく、らぐ所だった。

机のに置かれたさな写真てので、夫がいつもの優しい笑顔を浮かべてこちらを見つめている。 私は夫の遺品である『お客様おもてなしノート』をき、ポケットからあの古い万を取りした。 かつて悪事を暴くための武器となったこの万は、今、再びお客様への謝と誠を紡ぐための、本来の具へと戻っていた。

しいページに、今夜の付をらせる。

『渡辺様ご夫妻よりお拝受。婚式の御礼とのこと。来、桜の季節に再訪のご予約を承る。松島板と相談し、奥様のお好きな桜鯛の潮汁をご用すること』

カリカリと、静寂な部よいペンの音が響く。

「ねえ、あなた……。あなたのしたホテルは、今もたくさんのお客様の笑顔で満ち溢れていましたよ」

私は写真のの夫に向かって、静かに語りかけた。 もう、しみの涙が零れることはない。 失いかけていた誇りも、信頼も、そして々の温もりも、すべては確かに私の元へと戻ってきたのだから。

もまた、から朝が昇ると共に、このホテルの玄関がく。 からの誠と、本物のおもてなしで、訪れるすべての々をお迎えするために。

私は静かにノートを閉じ、く満ちりた呼吸をひとつ吐きした。

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