みかん小説
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"十年の沈黙と離婚届" 第3話

の言をかけた者はいませんでした。

義姉は、自分の実であるこの敷に遊びに来るたび、指本かそうとはしませんでした。 着の着物を脱ぎ捨てるなり、私の腕のへ放り投げるようにして寄越すのです。

「はい、さん。これ、すぐにを通して干ししておいてね。帯のシワも当て布をして伸ばしておいてちょうだい。……まあ、あなたには、そうやっての脱ぎ捨てたものを片付けるくらいしか、取り柄がないんだから、これくらいは完璧にやりなさいよ」

私は、畳のに落ちた絹の帯を無言で拾いげ、膝をついて丁寧に皺を伸ばしながら、をくげました。

「かしこまりました。すぐに入れをいたします」

親族同が集まる盆や正の寄りいは、私にとって最の「見せ物」のでございました。 広を埋め尽くした親戚同ので、酒に酔った義父は、必ず盃を持ったで私を指差すのでございます。

「おい、見ろ見ろ。これががの嫁のだ。見ての通りの器量よしでもなければ、学もなければ、気の利いた才覚もない。親の持参だけを頼りにこのに転がり込んできた、ただの居候よ」

座敷に、卑た笑い声が満ち満ちていきます。 「いやあ、宗方の旦もがいい」「よくぞまあ、そんな嫁の貰いになってやったものだ」と、酒に任せた放言がび交います。

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私は、い真鍮の銚子を両で支え、ひとりの盃に酒を注ぎ回りながら、線を畳の網目に落としておりました。 目、目、目……。 畳の目をので数えげることだけが、を塞ぎたくなるような嘲笑の嵐をやり過ごすための、私の唯の術でございました。 けれど、私は惨めだとはいませんでした。 いつのか、この膝を伸ばし、自らのでちがるが必ず来ると、の奥底で静かに、固に信じていたからでございます。畳の目を数えるそのわずかなのだけで、私のはどこまでも静謐になれました。 伏せられた私の瞳の奥に、どのようなたいが宿っているのか、酔い潰れた親族の誰も気づく者はいませんでした。

「……おはな、宗方のに置いてもらっているだけの、かされている無能な女なんだよ」

義父は、廊ですれ違うたびにそう吐き捨て、私を使用のように壁際へ追いやりました。私は何も言わず、壁に背をぴったりとつけ、息を殺してを譲るのが常でした。 夫の宗方孝幸は、父のその傲な態度の横で、常にら笑いを浮かべて眺めているだけでした。

度でいいから、私の方をしてほしい。 度でいいから、「父さん、そんな言い方はやめてくれ」と庇ってほしい――そんな淡い期待を抱いていたのは、結婚して最初の、ほんのらずのだけでございました。

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祝言の夜、きりになった暗い寝で、「これからはで力をわせて、温かい庭を築いていこう」と私のを握り、照れたように見せてくれたあの優しい横顔を、私はまだ覚えておりました。

けれど、孝幸はやがて、このの歪んだ空気に染まり、父の言葉に嬉々として相槌を打つようになっていきました。 「まったく、親父の言う通りだ。気が利かないというか、領が悪いというか……見ていてけなくなる女だよ」 夫のから、父の受け売りの言葉が滑り落ちたあの夜の景を、私は今でも鮮にいせます。 その夜、私は台所で器を洗いながら、蛇から流れ落ちるたいの音を、ただち尽くしたまま止められずにいたのでございました。

結婚してが過ぎた頃から、孝幸の泊が目に見えて増えてまいりました。 け方、朝が庭を濡らす刻に帰宅する夫の襟元からは、嗅ぎ慣れない甘ったるい舶来のの匂いが漂っておりました。 ある朝、玄関の式台を掃き清めていた私の元に、夫のスーツのポケットから滑り落ちたとわれる、鮮やかな真のが転がってまいりました。の属ケースに収められたそれは、私が決してにつけることのない、派ないでございました。

私は何も言わず、そのを拾いげ、指先で埃を払うと、居の箪笥のさな引きしの奥くへと、静かに収めました。

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